「或る列車」で究極のラグジュアリー体験

「或る列車」車内にて

 次にご紹介したいのは、JR九州の「或る列車」。これまでさまざまな観光列車に乗車してきましたが、その中でも最もラグジュアリーな体験をさせてくれたのが「或る列車」です。私は2回乗ったことがあるのですが、夢のように豪華な時間を過ごさせてもらいました。

 まず、外装からすごく華やか! 金色にキラキラと煌くボディに、黒と金の唐草模様をあしらったデザインは、新年を飾るのにもぴったりな荘厳さ。「或る列車」がホームに入ってくると、そのゴージャスで格調高いビジュアルに圧倒されます。

「或る列車」のゴージャスな車体

 車内に一歩入れば、そこにはさらに華やかな世界が待っています。ドアには中央にハートをかたどった美しいステンドグラスがはめられていて、七色に彩られた光が車内に差し込んできます。その光景がなんとも幻想的で、乗った途端にうっとり。

ステンドグラスがはめられたドア

 さらに、ドアのすぐ横のガラスキャビネットに目を向ければ、中には鉄道模型の大家である故・原信太郎さんが製作した鉄道模型が! この模型は「或る列車」のデザインの元になったものです。

「或る列車」のデザインの元になった鉄道模型

 じつは、明治期に九州鉄道がアメリカのブリル社に発注して製造したものの、営業運転することが一度もないまま廃車となった豪華列車がありました。名称もなく、鉄道ファンに“或る列車”と呼ばれていた、その幻の客車。少年時代の原さんはそれが捨てられているのを見つけると、車両を注意深くスケッチしたそうです。そして、大人になってから模型として再現しました。その模型を元にして 、鉄道車両デザインの第一人者である水戸岡鋭治さんらがデザイン・設計し、2015年から運行がスタートしたのが「或る列車」というわけです。

 長い歳月を経て蘇った幻の豪華列車――。「或る列車」の誕生秘話を知ると、携わった人々の鉄道への情熱やロマンを感じて胸がじいんと熱くなりますね。