文・写真=村井美樹 編集協力=西垣一葉(春燈社)

のと鉄道 写真=アフロ

なんてことない風景がいい

 ローカル線には、ロードムービーのような魅力があると思っています。ゆったりと流れるのどかな空気。何も考えずに頭を空っぽにして、車窓の風景を眺めているだけで心が満たされていく感覚。乗るたびに、なんてことない日常の風景に感動してしまうのです。

 たとえば、田んぼの風景。のと鉄道では、海と水田がつながっているように見える眺望に心を奪われました。のと鉄道は、石川県・能登半島の七尾湾沿いを七尾駅から穴水駅まで走る路線で、穏やかな内海と豊かな田園風景を楽しめます。

のと鉄道の車窓から見た景色

  私が乗車したのは、ちょうど田植え前の田んぼに水が張っている季節。奥には七尾湾が広がり、手前には水田が一面に並んでいました。それが車窓からとても近くに見えて、まるで海と水田がつながっているような不思議な景色だったのです。この時期にしか出会えない貴重な光景でした。

「のと里山里海号」の前で

 能登の風情を感じながら、さらにじっくりと景色を堪能したい人には「のと里山里海号」という観光列車もあります。車内には能登の伝統工芸品があしらわれ、座席も景色が見やすいように配置されています。ビュースポットでは、一時停車したりゆっくり走ってくれたりするサービスも。

JR大糸線。鉄道旅には欠かせない、こけしとともに

 また、JR大糸線の水田の風景も印象的でした。この路線は長野県の松本駅から南小谷駅を経て、新潟県の糸魚川駅までを結んでいますが、田植え前の季節には田んぼが水鏡のようになって、周囲の山や青空をきれいに映しだすのです。

JR大糸線の車窓から見た景色。田んぼの水鏡に映る、北アルプスや青空

 湖沿いを走る区間では、その水鏡と湖がつながっていくような感じになり、遠くから見るとまるで列車が水の上を走っているかのよう!

 住んでらっしゃる方にとっては日常の風景なのでしょうが、私にとっては絶景になる。そんな素晴らしい場所が、ローカル線にはたくさんあります。