文・写真=村井美樹 編集協力=西垣一葉(春燈社)
電車しか辿り着けない風景
印象深かった鉄道旅に、北海道での流氷ツアーがあります。『新・鉄子の旅』の取材でオホーツク海沿いを走る「流氷ノロッコ号」に乗り、流氷を見に行きました。
流氷ノロッコ号は、冬季だけJR釧網本線の網走駅〜知床斜里駅間を運行する観光列車です。日本で車窓から流氷が見られるのはこの区間だけ。ノロッコ号には流氷を見るために窓のほうを向いた木製の長椅子が配置され、車内を温めるための石炭のダルマストーブがありました。なんとも私好みの風情がある列車だったのですが、残念ながらけん引するディーゼル機関車の老朽化により2016年の2月で引退してしまいました。今はその後継として「流氷物語号」が走っています。
さて、ノロッコ号の車窓から流氷を楽しんで終点の知床斜里駅に着くと、次は釧網本線で北浜駅まで引き返して下車しました。この駅は「流氷に一番近い駅」といわれていて、駅舎の隣にある展望台で流氷を見ることができます。さらに、そのあと北浜駅の隣にある浜小清水駅に移動し、駅から流氷の間近まで歩いて大氷原の絶景を堪能しました。流氷のギシギシ擦れ合う音やぶつかり合う音まで聞こえ、まるで世界の最果ての地のよう。一生のうちでも数えるほどのすごい体験でした。
この旅では、このような絶景の地まで鉄道で来ることができたということにも改めて驚きと感動を覚えました。誰にでも日常で利用している最寄駅があります。その最寄駅からずっと鉄道を乗り継いでいけば、日常からは遠くかけ離れた壮大な流氷にまでつながるのです。鉄道は日常と非日常をつなげてくれる。どこまでもつながっている。鉄道ってなんてすごいんだろうと、つくづく驚嘆した旅だったのです。