文=鈴木文彦 イラスト=ナガノチサト
ワインとフランス文学のスペシャリスト鈴木文彦氏が、私たちの〝今の気分〟にぴったりの1本を教えてくれる本連載。第3回目は、プレゼントに使える、ひねりのきいたワイン選びを教えてくれた。
今回の質問者
「新型コロナウイルスの影響があって、もう半年も直接会えていない取引先。残暑見舞いとしてワインを贈ってみたいのですが、どんなワインがいいでしょう?」(40代男性)
今年はなかなか暑くならなかったですが、やはり夏は夏。暑い時期の定番ワインといえば、冷やして美味しいスパークリングワイン、白ワイン、ロゼワインでしょうか。とはいえ、最近では、赤ワインを冷やして飲む、というスタイルはもちろん、ワインに氷を入れて飲む、という飲み方にも、だんだん抵抗がなくなってきているように感じます。また、この夏、日本市場に登場した、冷やして美味しい赤ワイン「コノスル ピノ・ノワール ビシクレタ クールレッド」のように、冷やすことを推奨している赤ワインもあります。
夏の飲み物としてワインを考える
ワインの適温問題には諸説あり、ワインによっても、合わせる食事やグラスによっても、人やその日の温度や湿度によっても変わってくるので、これが正解、とはいえませんが、それでも赤ワインの適温はだいたい、高くても18℃程度、低ければ14℃程度で意見がまとまるとおもいます。白ワインやスパークリングワインであれば、10℃の前後4℃くらいでしょう。
今の時期、普通に室温においたらワインの温度は20℃を越えるはずです。つまり、ワインはなんらか冷やして飲むものなのです。そんなわけで、ワインは夏の飲み物としてもよい、とやや無理やり結論づけて、では、取引先に贈るならばどんなワインがよいか、というところを考えてみたくおもいます。
せっかく贈るのだから、喜んでもらいたいし、美味しく飲んでもらいたい。しかし、相手がワインに詳しいこともあれば、そうでないこともあるでしょう。ワイン通なら喜ぶ、というワインよりも、わかりやすく、受け入れられやすいワインのほうがよいのではないでしょうか。
選択肢①有名人がつくった本格ワイン
そんなところからまず思いつくのが、有名人が関わっているワイン。アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットが持っているワイナリー「ミラヴァル」を代表するロゼワイン、「ミラヴァル・ロゼ」(https://www.jeroboamfwc.jp/products/detail/375)はどうでしょう。こちらは、話題性ばかりではなく、ワインとしての評価でも輝かしい実績を誇り、ロゼワイン最高峰のひとつです。毎年、夏至の日に、2020年の夏至ならば2019年のミラヴァル・ロゼが解禁になる、というのも夏っぽく、そもそも、南仏のロゼです。優雅なバカンス気分にしてくれます。さわやかでありながら奥深い味わいをもって、価格は3,400円前後と手頃です。
こうした有名人シリーズは、ワインの場合、その有名人がきちんとワインの出来を認めた、品質に優れたワインが揃っているのが特徴です。どうにもならない商品を有名人の知名度でなんとか売ろうとしている、というようなものはワインの場合、見かけません。いくつか例をあげると、映画監督フランシス・フォード・コッポラがカリフォルニアにもつワイナリー「フランシス・フォード・コッポラ・ワイナリー」。比較的手頃な価格のワインが揃ういっぽう、コッポラが再生した「イングルヌック」は、カリフォルニアワインのなかでもトップクラスの高評価を受ける高級ワイン。おなじくカリフォルニアには、価格の問題よりも人気のために入手困難なX JAPANのYoshikiが手掛ける「Y by Yoshiki」、ゲーム会社として知られるCAPCOMの創業者 辻本憲三氏がオーナーの、贅沢でカルト的人気を誇るワインを造る「ケンゾー エステイト」といった、日本の有名人による優れたワインもあります。イタリア、トスカーナのワイナリー「イル・パラジオ」は、恵まれた環境でナチュラルかつ手頃な価格のワインを造るワイナリーですが、オーナーはミュージシャンのスティング。音楽にちなんだワイン名やラベルデザインも洒落ていて、フラッグシップとなる作品の名は、「SISTER MOON」といいます。SISTER MOONは、サンジョベーゼを主体として、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローをブレンドした、トスカーナの高級ワインの造り方で造られています。
選択肢②氷を入れて飲むワイン
知名度でいうと、ワインとして有名、というワインもあります。ロマネ・コンティ、ドン ペリニヨン、オーパスワン、ラフィット・ロートシルト、などといった名前なら、ワインをあまり知らない人でも、高級・超高級ワインとして耳にしたことがあるのではないでしょうか。そんな有名ワインのなかで、今回のお題に合いそうだとおもうのが、シャンパーニュ地方のリーディングメゾン「モエ・エ・シャンドン」が造っている「アイス アンペリアル」です。
長い歴史をもち、歴史上の偉人(日本では天皇家も)や世界中の有名人に愛されるモエ・エ・シャンドンのなかでも、「アイス アンペリアル」は現醸造最高責任者であるブノワ・ゴエズが発明した新しいシャンパン。南仏にバカンスに訪れている人々がワインに氷を入れて飲んでいるところを見て、だったら、氷を入れないと完成しないワインが造れるのではないか? と考えて造ったユニークなシャンパンです。モエ・エ・シャンドンを代表する「モエ アンペリアル」ももちろん、夏の爽やかなワインとして、野菜や魚料理といった夏に食べる食事ともよく合うオススメ品ですが、「アイス アンペリアル」であれば、「え、こんなワインもあるの?」とちょっとしたサプライズをお届けできるのではないでしょうか。見た目の高級感も贈り物として魅力的です。
こういったワインにちょっとした説明を添えて、お取引先をワインの面白さへといざなっていただければ、筆者も嬉しくおもいます。ワインは人と人とをつなげるもの。ご自分用にも一本用意して、共通の話題を持つのをお忘れなく。
いっぽう、相手がワイン好きであれば、おそらく、どんなワインであっても、喜んでくれると筆者は確信しています。とはいえ、ひどいワインだったらどうしよう……そんな不安が頭をもたげる気持ちもわかります。そういうときには、ちょっとめずらしい産地のワイン、相手のゆかりがある土地のワインがよいのではないでしょうか。あまりクセの強いワインは避けたほうがよいようにはおもいますが。そのあたりの見極めにあたっては、手前味噌ではありますが、筆者の手掛ける雑誌『WINE WHAT』などご参照いただければ、毎号たくさんのオススメできるワインが掲載されています。掲載ワインはどれを選んでもハズレ無し、と申し添えて、今回を終わりたくおもいます。
ミラヴァル
ミラヴァル ロゼ
アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットが別荘として所有し、南ローヌ最高峰の名生産者ペラン家がワイン造りをおこなう、プロヴァンスのワイナリー「ミラヴァル」。2020年現在の最新は2019年ヴィンテージ。爽やかでドライなミラヴァル・ロゼ。しかし、2019年は、注意して味わえば、ブドウの凝縮度が高く、複雑かつ骨格のある味わいがあるのを感じられる
モエ・エ・シャンドン
アイス アンペリアル
氷を入れても美味しいワインはあれども氷を入れてはじめて完成するワインは非常にユニーク。ノウハウと高い技術力、革新性、大手ならではの規模があればこそ。大ぶりのグラスに、まず、アイス アンペリアルを注ぎ、その後、氷を入れるのがベスト。マンゴーやグアヴァなどなどのトロピカルフルーツの香り、ネクタリンやラズベリーにほのかなショウガのような風味を感じられる。塩味のある軽食や前菜、柑橘類との相性が特に良い