文=鈴木文彦 イラスト=ナガノチサト

ワインとフランス文学のスペシャリスト鈴木文彦氏が、私たちの〝今の気分〟にぴったりハマる1本を教えてくれる本連載。第2回目はワインの価格に秘められた意味を教えてくれた。

 

今回の質問者

世の中には何百万円もするワインもあれば、1000円以下で買えるワインもあります。なんでそんなに値段が違うんでしょうか?(40代男性)

 

 高価なワインと安価なワインの違いはどこから来るのか? 簡単でもあり、なかなか答えづらい質問でもあります。

 

高いワインの条件

 そこで、高価なワインを考えてみましょう。せっかくなので、「世界一高値で取引されるワイン」とも称される、ロマネ・コンティを例に考えてみます。

 ロマネ・コンティはピノ・ノワールというブドウ品種で造られる赤ワインです。畑はフランス ブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネ村にあります。ディジョンとボーヌの間あたりです。ロマネ・コンティの畑は、2000年前から、ワインブドウの名産地と称されていて、現在は特級(グラン・クリュ)という格付けがなされています。広さは1.8ヘクタール。これは1万8千平方メートルです。

 気温は、平均14から16℃。昼夜の寒暖差は大きい、という、やや寒い環境で、ピノ・ノワールの栽培には最適です。東南東の日当たりのよい場所にあり、葉が多すぎず少なすぎずの日光を得ることができます。土壌の上層は石灰質で痩せています。それゆえに、水分やミネラルといった、生きていくのに必要な栄養を得るためには、ブドウ樹は地中深くまで根を伸ばします。そして、この地中の地層が変化に富んでいるため、さまざまな栄養を得ることができます。地中深くまで根をはったブドウ樹の樹齢は平均で50年以上です。必要十分ではあるけれど、楽ではない、そんなちょっと厳しい環境が、高品質な果物を得るには理想的なのですが、ロマネ・コンティの畑は、理想の条件がバッチリと揃っています。

 

ロマネ・コンティの畑は馬で耕されている!

 この畑の所有者は、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)というワイン製造業者です。複数の組織ではなく、ひとつの組織が専有する畑のことを単独所有畑、などといいます。単独所有畑は、ひとつの生産者が代々、責任をもって管理してきた畑で、現代的にいえば、トレーサビリティが確保されています。また、畑の管理者と同じ人物、同じ組織が、その畑のブドウを醸造する場合が多く、栽培から醸造に至るまで、ブドウの扱い方を熟知しています。ロマネ・コンティもDRCが栽培と醸造をおこなっています。

 栽培の話に戻ると耕作は馬でおこない、農薬や除草剤は不使用。ブルゴーニュで伝統的に行われてきた、手間がかかり、儀式性すらある農法で畑を管理しています。

 ブドウは収穫量を追わず、徹底的に質を求め、少ない果実のみを樹にならせることで、栄養を凝縮し、さらに、収穫後にも、厳しい選果をして、質の良いブドウだけを選び、発酵し熟成させます。

 このとき、ポンプを使わない、発酵時に発生する澱の除去や濾過は最小限にとどめる、など、果汁を傷めず、果実のもっている要素をあますところなく液体に取り込もうとします。

 ちなみに、醸造に使う樽は、トロンセの森、というところのオークで造ったもので、これまた、非常に歴史の長い、フランスのオークの樽材としては最高と称されるものです。この樽のなかに16カ月から20カ月おかれて、やはりポンプを使わず、ワインは瓶に詰められます。一年間の生産量はわずか、6000本ほどです。

 

これが高級ワインの条件だ

 これが、750mlで100万円は下らない液体の造られ方です。

 そして「この年は特にできが良い、個性がある」という年のものは、さらに高い価格で取引され、また、名作とされる年のワインは、時間が経つにつれ、絶対数が減ることもあって、希少価値が増し、状態がよいものであれば、さらに高価で取引され、道産としての価値も持ちます。

 というわけでまとめてみましょう。ロマネ・コンティから考える高級ワインの条件は以下のようになります。

●歴史的に価値ある場所でブドウを栽培・ワイン醸造をおこなっている
●公的な機関による格付けがあり、その格付けの上位に君臨する
●気候・土壌の条件で優れている
●畑の面積が狭い
●ブドウ樹の樹齢が高い
●ブドウの収穫量が少ない
●ブドウ栽培家とワイン醸造家が同一、あるいは親しい関係にある
●他者に干渉されない条件が揃っている
●生産者になんらかの特別さがある
●生産に手間と時間がかかっている
●生産設備に投資がなされている
●熟成に時間がかかっており、長期熟成が可能である
●生産本数が少ない

 語弊を恐れずにいえば、以上の条件を満たさなければ満たさないほど、ワインの値段は下がってゆきます。上の条件を全部満たさないでワインを造るのはおそらく不可能ではありますが、たとえば、山と平野があった場合、山のほうが畑の面積を確保しづらく、栽培に手がかかるため、出来上がるワインが高価である可能性が高く、また、一本の樹からたくさんのブドウを採りやすい品種から造ったワインのほうが同じ畑のブドウでできたワインであっても安い可能性が高いのです。

 

味と価格は一致するのか

 ただし、価格はワインの評価の絶対的な指標にはなりません。そもそも、テーブルワインとして、安く販売することを製造段階から想定しているワインを、高級ワインとくらべて、ここが足りない、などというのは、不毛なことです。美味しいか美味しくないか、その液体に感動できるかどうか、においても、同様です。

 たとえば、チリワインには、一般に低価格で美味しいワイン、というイメージがありますが、それはそういうワインを造ろうとして、それに成功しているからですし、チリワインにも、上記の高級ワインの条件を満たした、高値で取引されるワインがあります。

 美味しい、美味しくないは感性の問題なので、基準を提示することにあまり意味はありませんが、ひとつ言えるのは、その土地で世界をあっといわせるワインを造ってやろう、と人生をワインに捧げる生産者が造っているかどうかが、買って損をしないワインと出会う指標になる、ということです。

 たとえば、フランスの南西地方、マディランというところには、タナという聞き慣れないブドウ品種でもって世界をあっといわせた、アラン・ブリュモンという造り手がいます。このアラン・ブリュモンの「ドメーヌ・アラン・ブリュモン シャトー・モンテュス ラ・ティル」というワインは、2010年のものだと、23,000円という参考小売価格がつく高級品ですが、格付けや歴史的価値という点で、おなじフランスのボルドーなどには譲るものの、高級ワインの条件をことごとく満たしていますし、「ドメーヌ・アラン・ブリュモン シャトー・ブースカッセ ヴィエイユ・ヴィーニュ」になると、こちらも同じ2010年のもので5,800円という参考小売価格が驚異的にお手頃、とおもわせる感動を与えてくれるとおもいます。

 どんなワインも、人が造るもの。であれば造った人のおもいは、受け取った人に通じるものだと筆者は信じています。どんな価格であっても、どうせだったら、真面目に造られたワインを選んでみてください。

ドメーヌ・アラン・ブリュモン シャトー・ブースカッセ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2010

希望小売価格 5,800円
お問い合わせ先
三国ワイン
TEL 03-5542-3939
HP  https://www.mikuniwine.co.jp/

伝統的にワインの産地であり、かつ、美食の地でもあるフランス南西地方の、マディランを世界最高峰のワイン産地のひとつ、と世界に認識させた革命児、アラン・ブリュモン氏が管理するワイナリーのひとつ、シャトー・ブースカッセ。マディランでは比較的標高の高い、海抜120~150mの南西向き斜面に272haの畑をもっている。手間暇をかけ、生態系を保全し、収穫量を追わないでブドウ栽培を実践。このワインに使われているブドウはタナという品種100%で、ブドウ樹の樹齢は50年以上。フランス産のオークの新樽で14カ月熟成という贅沢な造り。溌剌としてメリハリのあるキャラクターはニューワールドのカベルネ・ソーヴィニヨン好き、などという人にはぜひ味わってもらいたい逸品

ドメーヌ・アラン・ブリュモン シャトー・モンテュス ラ・ティル 2010

希望小売価格 23,000円
お問い合わせ先 
三国ワイン
TEL 03-5542-3939
HP  https://www.mikuniwine.co.jp/

アラン・ブリュモン氏の管理する、シャトー・モンテュスのワイン。こちらもタナ100%。アラン・ブリュモン氏のワインのなかでも贅を尽くした一本で、ブドウの収穫量の低さは本文で話題にしたロマネ・コンティを凌ぐ。年間生産本数は1万本。畑は石の転がる急斜面にある。発酵には3から6週間、オーク樽での熟成は14から16カ月かけ、フィルターをかけず、ブドウのもつ要素をワインに可能な限り取り込んでいる。複雑さ、上質感、品の良さ、どこをとってもボルドーの名門の作品と真正面から勝負できる正統派の名品