漏水した道路橋脚の例(本文とは関係ありません。写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

「高齢化」が急速に進み補修がなかなか追いつかない日本の橋梁。補修の必要性が高い箇所をいかに見つけるかが大きな課題になっている。そのカギを握るのが「健全度」と「劣化要因」を見極める熟練技術者のスキルだ。

 長年の経験が不可欠な熟練技術者の不足をAI(人工知能)で補おうというのが、日本ユニシスが2020年6月に提供を始めた、橋梁の点検・診断業務支援システム「Dr.Bridge」である。コンクリート部分の画像やひび割れの状態などを基に、AIが橋梁の「健全度」と「劣化要因」を自動で判定する。熟練技術者と変わらない水準で診断できるだけでなく、危険性の見落としを防ぐことで、点検・診断の品質向上が期待できる。

写真以外に損傷情報や諸元データも入力

 橋梁の点検は原則として、近くに行って目視で行う。Dr.Bridgeの場合、現場に行った技術者は橋げたや床版の画像をデジタルカメラやスマートフォンのカメラで撮影するほか、2種類の情報を現場事務所などのパソコンからDr.Bridgeのクラウドに登録する。一つは、点検時に確認したひび割れの幅やコンクリートの浮き、さび汁や鉄筋露出の有無などの損傷情報。もう一つは、橋梁の架設年、凍害や塩害を受けやすいといった地域特性、橋梁の材料などの諸元データである(写真1)。AIはこれらのデータを組み合わせて解析し、橋梁の健全度と劣化要因を総合的に判定する。

写真1:Dr.Bridgeの画面例(日本ユニシス提供)
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 一般に高度な知見を必要とされる劣化要因と健全性の判定をDr.Bridgeが担うことで、経験が浅い若手技術者を点検・診断業務に任用しやすくなる。さらに、自治体への提出用の点検調書を自動作成する機能により、橋梁の点検・診断を実施した建設コンサルティング会社は業務の省力化を見込める。

 橋梁に対して5年に1度の近接目視点検を行うことが2014年に義務化されたため、点検・診断の経験を積んだ技術者の不足が顕在化した。一方で、全国に約70万もあるとされる橋梁の点検・診断に、自治体が負担できる費用には限りがある。Dr.Bridgeは、AIを使って業務の品質を落とさずに省力化する試みの一つである。