トランスリンク・キャピタルの秋元信行氏。NTTを経て、ドコモキャピタルCEO、NTTドコモ・ベンチャーズの副社長としてスタートアップ企業への投資を手がけ、2017年7月にシリコンバレーに拠点を置くトランスリンク・キャピタルのマネージングパートナーに就任
米国シリコンバレーに拠点を置くトランスリンク・キャピタルのマネージングパートナー、秋元信行氏は、ベンチャーキャピタリストの立場から主に国内の大手企業におけるオープンイノベーションの支援に取り組んでいる。秋元氏へのインタビューを基にオープンイノベーション成功のポイントを探る。(後編/全2回)
(前編はこちら)「新規事業に挑むなら、失敗が許されない文化を変えよ」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54318
自分の名前で意思表示ができるか?
――前回、オープンイノベーションを成功させるには、経営層のコミットメントが欠かせないというお話がありました。どのような形のコミットメントが望ましいのでしょうか。
秋元信行氏(以下、敬称略) 実際には、よく言われる「経営層によるコミットメント」というだけでは不十分で、本当の意味での行動が欠かせません。
成功している企業の経営層が実践している行動様式を言語化してみると、こんな具合になります。「意志決定権限を持つ人が、その権限を行使することを覚悟すること」。これは、実行に移すか移さないかを自分の名前の下に決定し、それに伴う各種の反応に対して自分の名前で対応することを指します。
仕方のないことなのですが、日本の経営者は多くの場合、従業員が出世して経営者になっているので、あまり自分の名前で意思表示をしようとしません。けれども、それをしないと、せっかくオープンイノベーションで良いアイデアが孵化しようとしていても、なかなか前に進みません。前に進ませるためには、「私がやると決めた。誰かが何か言ってきたら、私が話をして説得するから」と言える経営層の存在が必要なのです。
――経営層がそうした判断をし、現場を説得するためには、やはり何かの基準が必要ですね。
秋元 はい、会社が目指す“ビッグピクチャー(全体像)”を可視化して共有することが大事です。ビックピクチャーの中でオープンイノベーションがどのような位置づけなのかが明確になれば、意志決定がしやすいですし、現場の説得も進めやすい。オープンイノベーションの具体的な進め方は、それこそ半年単位でどんどん見直せばいいのです。
――しかし、組織を独立させたり別の評価制度を適用したりさせるには、時間も手間もかかります。
秋元 最初はライトスタート(軽めの取り組みの開始)でかまわないと思います。とりあえず2~3年、取り組んでみる、その中でスタートアップ企業と交流して情報やアイデアを得たり、オープンイノベーションの可能性を検証したりする。
ただ、ライトスタートでも自社が何をスタートアップ企業にGive(提供)できるのかを真剣に考えなければいけません。スタートアップの経営者に「その場限りでうまく利用されるだけ」と思われたら、彼らも本気にはなれません。オープンイノベーションを通じてスタートアップ企業と一緒に成長し、共に利益を分かち合う。そのような枠組みを早期に設計することが必要です。
経営層のビジョンが明確なら動きやすい
――トランスリンク・キャピタルはSOMPOホールディングスのコーポレートベンチャーキャピタルファンドの運用を担っています。近年、SOMPOホールディングスはデジタル戦略の推進で話題を呼んでいます。
秋元 今一緒に取り組ませていただいているのですが、SOMPOホールディングスには、CDO(最高デジタル責任者)の楢﨑浩一さんをはじめ“一人称”でデジタル戦略、オープンイノベーションを語ることができる経営層が何人もいらっしゃいます。おかげで、お手伝いするVC(ベンチャーキャピタル)としては意味のある出資先を探しやすいですし、先方と交渉の仕方についてもあまり迷うことがありません。
――SOMPOホールディングスのコーポレートベンチャーキャピタルファンドでは、どのような企業に出資しているのでしょうか。
秋元 実質的に2017年9月からスタートして現在1年ほどが経過し、複数社に出資しています。日本企業もありますが、イスラエルの企業にも出資しています。
例えば出資先の1社、Guardian Optical Technologiesは自動車の搭乗者の状況をモニタリングするマイクロモーションセンサー技術を開発しています。この技術は、誰が搭乗しているかを認識し、個々人の微細な挙動までも高精度に感知することができます。事故抑制のための安全技術をはじめ、幅広い用途に応用される技術としてメーカーからも注目を浴びています。
また、Sensefreeという会社は、非侵襲型の血圧測定機器を開発しています。精度の高い血管動態モニタリングセンサーの技術を持っており、細かく血圧を測定できることが特徴です。動脈にカテーテルを刺すタイプでは患者に負担がかかりますし、腕に巻き付けるカフタイプでは5分ごとにしか血圧を計測できません。将来はコンシューマ向け製品の開発も目指しています。
コロコロ変わる人事異動への対処法
――日本の大企業では定期的な人事異動があり、オープンイノベーションの勘所をつかんだ担当者が次の定期異動でいなくなるというケースがままあります。
秋元 悩ましい問題ですね。手前味噌になりますが、オープンイノベーションの取り組みに我々のような外部組織をかませることで、前任者のノウハウを新規のご担当者に引き継ぐことが比較的やりやすくなるはずです。
――オーナー経営ではない日本の大企業の場合、社長は任期が過ぎると交代します。新しい社長がオープンイノベーションに対して理解がなかったら、取り潰しになることが考えられませんか。
秋元 もはや自前主義ではままならない時代です。その中で、オープンイノベーションは例えばR&D(研究開発)と同じだと思うのです。景気の変動などによる投資額の上下は仕方がないとしても、継続的に取り組むべき活動です。
ただ、経営者によって考え方の差異があり、「儲かっていないならストップだ」と言われる可能性もあるでしょう。そこで、私たちがオープンイノベーションをお手伝いさせていただく場合、一定レベルのフィナンシャルリターンも実現できる仕組み、取り組みを考えましょう、と提案しています。経営層ががらりと変わったとしても継続を主張できるようにするには、とにかく数字が大切ですから。
そうは言ってもフィナンシャルリターンを得られるようになるまでがとにかく難しい。いわゆる「Jカーブ」のへこみをどう乗り越えるかが大きな課題です。そこで踏ん張れるかどうかは、やはり経営層の理解が欠かせません。産業界全体におけるオープンイノベーションに対する理解の醸成が必要です。
――ハードルが高く、悩ましい課題が多いですね。
秋元 しばしばスタートアップ企業やデジタル技術の話題だと、「シリコンバレーはすごい、日本は駄目だ」という話になりがちです。しかし、私としては日本企業にとってやりやすい、日本ならではのやり方があっていいと考えています。特に日本の場合は大企業がスタートアップ企業に出資して育てるというエコシステムがこなれてきています。これが発展して、大企業とスタートアップが相互に刺激し合い、発展していくシステムが確立することを願っていますし、VCとしてお手伝いができればと思っています。





