独禁法当局とテック大手の「冷戦」続く

 米国では21年6月、IT(情報技術)大手に対する規制推進派として知られるリナ・カーン氏が連邦取引委員会(FTC)の委員長に就任した。それ以降、テック大手と当局の「冷戦」が続いているとCNBCは報じている。

 アマゾンは21年7月、同社に対するFTCの反トラスト法(独占禁止法)調査からカーン委員長を外すよう求める嘆願書を提出した。「アマゾンの商慣行を批判してきたカーン氏は先入観を持っており、同氏の下では公平な調査が行われない」というのがアマゾンの主張だ。米フェイスブック(現メタ)もアマゾンに追随。「かねてIT大手を問題視している人物が調査に加わることは公平ではない」とし、カーン委員長を調査から除外するよう求めた。

現行法では巨大ITの規制困難

 反トラスト法を巡っては、従来型のモノの販売競争を前提に消費者不利益を判断する現行法の枠組みでは、巨大ITを規制することは困難だと指摘されている。

 FTCと米ニューヨーク州などの48州・地域の司法長官は20年12月、フェイスブックを反トラスト法違反の疑いで提訴した。フェイスブックが米国のSNS市場で6割以上のシェアを持っており独占に当たると主張。12年に買収した写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」と14年買収した対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」を分離するよう求めた。

 しかし、米首都ワシントンの連邦地裁は21年6月、「フェイスブックがSNS市場を独占していることを示す法的根拠が不十分だ」としてFTCの訴状を棄却。州・地域の司法長官による訴訟は、訴えそのものを棄却した。FTCは21年8月に訴状内容を一部変更して再提訴した。フェイスブックはこれに反発。訴えの棄却を求めたが、連邦地裁は22年1月、審理を進める判断を下した。この法廷闘争は長期化するものとみられている。

 一方で、アマゾンによる映画スタジオ(MGM)の買収、マイクロソフトによるゲーム会社(アクティビジョン)や音声認識技術会社(ニュアンス)の買収については、携帯電話やブロードバンド通信のような競合企業が限定的な業界とは異なるため、合併による独占を立証することが難しいという。

立証責任、政府から企業に

 こうした中、米議員らはテック大手に対する規制を強化するべく新たな法案に取り組んでいる。米議会上院司法委員会は1月20日、「オンラインにおける米国人の選択と技術革新法」を承認した。同法案は上院本会議の審議に進むことになった。支配的なオンラインプラットフォームが自社の製品・サービスを優遇することを禁じるものだが、企業買収は対象外となる。

 そこで米議会は「プラットフォーム競争・機会法」と呼ぶ法案も検討している。CNBCの別の記事によると、これは立証責任を原告から被告に移すものとなる。現在は、買収によって市場競争がゆがめられることを政府側が立証する必要がある。この法が成立すれば、買収が法に抵触しないことを企業側が立証することになるという。

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