「つながり」を生み出し続ける
仕組みとして「都市=場」をつくる

 平井大臣はいま、今後のスタートアップ戦略には、拠点都市の形成や大学を中心としたエコシステムの強化や、教育面・育成面の充実が欠かせないと言う。その理由についてこう語る。

「日本は高いポテンシャルを持っているのに、どうして諸外国に負けるんだ、という思いがありました。そう思った時に、そういう人たち(起業家、スタートアップなど)の化学反応が起きるような“集積”を国として支援していく必要があるとの考えに至りました」

 今後イノベーション創出のためのスタートアップ戦略の鍵を握るのが、「集積」や「場」の醸成、拠点都市の創出なのだという。

「シリコンバレーを見ても、知人同士のネットワークの中から価値の高いつながりが生まれています。結局、デジタルの世界のつながりだけではイノベーションは興せません。やはり“直接会って話をする”ことは非常に重要なんです。その意味でも、いま分散しているものを、ある一定のエリアに集積させていく必要があると考えています」

 政治家として長年IT戦略に携わり、国務大臣就任後も現場の声を直接ヒアリングしてきた平井大臣は、デジタル技術では補いきれない「人と人とのつながり」を非常に重視している。その一環としてSlush*2 やInnovation Leaders Summit*3 に代表されるような、スタートアップやオープンイノベーションを加速させる大規模なイベントを定期的に開催し、日本にGoogle Campus*4 のようなシンボリックなスタートアップ拠点を設置する展望もあるという。象徴的な「場」をつくることで、グローバル展開を見据えたイノベーション創出を支援する狙いだ。

「皆さんのピッチを受けていると、日本の文化に根差したビジネスモデルが多く、世界市場をマーケットに考えているものが少ないことが気になります。特にシェアリングエコノミー系のサービスなどは、国内に閉じた構想が多いと感じています。今後、かつてのソニーやトヨタ、パナソニックのような企業が日本からどんどん出てくるためには、グローバルに展開できる構想であることが必須だと考えています」

「つながり」形成の強化には、当然、オープンイノベーションの推進も含まれる。昨年度、内閣府は国内のオープンイノベーションを推進するために「日本オープンイノベーション大賞」を設定、2019年3月5日に第1回の表彰式が行われた。今後のロールモデルとなるような先導性や独創性の高いプロジェクトに対して、内閣総理大臣賞や各省の大臣賞、団体賞が与えられたが、この取り組みについて、平井大臣は可能性を語る。

大賞を設定した思い
そこに寄せる期待

「私が(科学技術政策担当大臣賞として)表彰したのは、パナソニックからのカーブアウトで誕生したスタートアップ、『ミツバチプロダクツ』です。大企業の中に眠っていた技術や人材を切り出して、他の経営資源とつなぐことで事業を成功させる、こういった事例は今後もっと増えていくと思います。また内閣総理大臣賞を受賞した、弘前大学COI*5 を核に産学官民連携で推進する『超多項目健康ビッグデータで『寿命革命』を実現する健康未来イノベーションプロジェクト』は、ビッグデータを使って『寿命革命』を実現しようという取り組みですが、『官民データ活用推進基本法』を議員立法でつくった立場として、こういう事業が生まれるのは非常に喜ばしい展開だと感じています」

 健康にまつわるデータは個人情報ということもあり、利活用しづらい側面がある。同プロジェクトでは、これを住民の健康診断を通じて収集・蓄積。健康ビッグデータとして研究者や企業に対して共有可能な情報としてオープンにし、ヘルスケアビジネスを生み出すシステムの構築に成功した。

「こうしたベストプラクティスが横展開され、あらゆる分野で予期せぬ組み合わせを生み出し、それが新しい価値につながっていく。そんな姿を想像しています」

 今年度開催される「第2回 日本オープンイノベーション大賞」についても、「もっと人を驚かせるような、新しいイノベーションが出てきてくれたら」と、応募企業・団体にさらなる期待を寄せる。また、今回の受賞取り組み・プロジェクトを見ると、大学や国立の研究所が参加しているものも少なくない。オープンイノベーションというと、大企業とスタートアップの協業というイメージも根強いが、社会的なインパクトの強いイノベーションを興すには、学術機関や研究機関との連携は欠かせない。優れた研究者や技術者が組織の外に出て、適切なオープン&クローズ戦略のもとで新たなチャレンジを試みることは、オープンイノベーションの「基本的なセオリー」だと語る。

「日本では、大学は“学生が勉強する場所”という印象が強いかもしれませんが、海外では明らかに違います。“新しい価値を生んでいこう”“イノベーションを興そう”という意識が海外の大学には明確に存在します。だから民間からの資金も集まるのです。海外のイノベーション成功事例を見ても、中心に学術機関(=大学)があることが多い。日本も安定的にイノベーションを興し続ける環境をつくるために、このことを強く意識しておく必要があると感じます」

 平井大臣によると、政府では、大学が有する潜在能力を生かし、若手研究者のモチベーションを高める支援、改革を行うための議論が重ねられているという。名実ともにイノベーション創出拠点としての地位を確立することができれば、日本の大学を取り巻く状況は大きく変わりそうだ。

*2 フィンランド発の世界最大級のスタートアップイベント
*3 毎年東京で開かれているアジア最大級のオープンイノベーションイベント
*4 Google が世界7都市(ロンドン、マドリード、サンパウロ、ソウル、テルアビブ、ワルシャワ、ベルリン)に設立しているスタートアップコミュニティーを活性化させる施設
*5 センター・オブ・イノベーション。文部科学省が2013年に定めた、全国18カ所の産学連携のイノベーション拠点。潜在する社会のニーズから10年後を見通し課題を設定、既存分野・組織の壁を取り払って解決に取り組む