毎日、朝イチで訪れたワイナリーで1杯のワインから始まる日々

ウエスト・ソノマ・コーストから学ぶソノマ・カウンティの現在地

ソノマ・カウンティで今、もっとも注目されている産地といえば、ウエスト・ソノマ・コーストである。2022年に認定されたばかりのソノマ・カウンティ19番目のAVA(アメリカ政府公認ぶどう栽培地域)だ。かつては広大なソノマ・コーストの一部だったが、冷涼な海洋性気候の特異性が際立ち、兼ねてから生産者や愛好家の間ではトゥルー・ソノマ・コーストと呼ばれ他のエリアと区別されていた。約1,000エーカー(約454ヘクタール)の栽培面積は、ロシアン・リヴァー・ヴァレーのわずか6%相当。現在、32生産者がウエスト・ソノマ・コースト・ヴィントナーズに名を連ねている。

2025年のソノマ・サミットにおける最重要ミッションの一つであるといわんばかりに、行程はウエスト・ソノマ・コーストのテイスティングマスタークラスからスタートした。タイトルは「WAY OUT WEST(最西端、西の果て)」(ソニー・ロリンズの名盤に同じ)。会場は「ブラック カイト セラーズ」で、ほかに「ペイ ヴィンヤーズ」「アーネスト ヴィンヤーズ」からの計3生産者が、セミナーを担当してくれた。

ウエスト・ソノマ・コーストのマスタークラス。ぶどう栽培面積はウィラメット・ヴァレーやロシアン・リヴァー・ヴァレーと比較しても非常に限られている

ウエスト・ソノマ・コーストのアイデンティティは、世界でも類を見ない冷帯海洋性気候にあり、エレガンス、酸味、そしてアロマの複雑さが際立つユニークなワイン造りの原動力になっている。年間を通じ冷たい北極海流の影響を受け、日中の最高気温は内陸部より低く、夜間の最低気温は高い。加えて自生するレッドウッド(常緑針葉樹)がフィルタとなり、海で発生する霧が雫となり、土壌を適度に保湿する点も重要だ。冷涼かつ湿潤、昼夜の寒暖差は穏やかという独特な気候がぶどうの生育期間を長く保ち、ゆっくりとした成熟を促す。ヴェレゾン(ぶどうが色づくこと)から収穫までの長いハングタイムにより、複雑な風味とアロマが育まれるというわけだ。 

太平洋と平行して走るサンアンドレアス断層沿いという地理的条件も特異で、急峻な丘陵や深い渓谷は、標高、斜面の向き、そして海からの距離に基づいて、多様な微気候を作り出す。加えて、ワインメーカーもまた、この地域のテロワールの重要な一部だと言う。開花期に風や霧が発生する厳しい気候ゆえ、収量は低く、温暖な内陸部の半分、年によっては3分の1程度にとどまることも。作業効率的にも経済的にも決してイージーではない土地を意図的に選ぶ独立精神と情熱にあふれた人々が、ウエスト・ソノマ・コーストを特別な産地たらしめている。

ウエスト・ソノマ・コースト、マスタークラスのテイスティングアイテム

テイスティングは各ワイナリーから2アイテムずつ、計6アイテム。産地の北端に位置し、オーガニック認証を受けた「ペイ ヴィンヤーズ」は、エレガンスを重視したスタイルで、シャルドネは伝統的なブルゴーニュ方式によりフレッシュさとミネラル感を引き出し、ピノ・ノワールは果実味、花の香り、土の香りがバランスよく調和する。南部で再生農業に尽力する「アーネスト・ヴィンヤーズ」では、ぶどうの低いph値が長期間のマロラクティック発酵を可能に。シャルドネは繊細なテクスチャーと複雑さが際立ち、シラーはクラシックな白胡椒とセイボリーなフレーバーが特徴的だ。「ブラック カイト セラーズ」は2015年に自社畑を植樹した比較的新しい生産者で、テイスティングした「エンジェル・ホーク」シャルドネは、ヴィヴィッドな酸味とスパイシーさがキャラクターだ。

テイスティングアイテム。「ペイ ヴィンヤーズ(Peay Vineyards)」「アーネスト ヴィンヤーズ(Ernest Vineyards)」のワインは日本でも購入できる

以上が、マスタークラス第一弾「ウエスト・ソノマ・コーストの巻」の概要である。ここまで読んで下さった方はお察しだろうが、冒頭に記した通り、マスタークラスは4回あり、第二弾はカリフォルニアワインのオリジンといわれるソノマ・ヴァレーについて、第三弾は高品質なシャルドネとピノ・ノワールでソノマ・カウンティの名を世界に知らしめたロシアン・リヴァー・ヴァレーについて、第四弾はジンファンデルのトップ産地、ドライクリーク・ヴァレーについて学んだ。

ドライ・クリーク・ヴァレーに関するマスタークラスの様子

それぞれの産地ごとに歴史とストーリーがあり、畑の区画ごとにミクロクリマの影響があり、ワインメーカーの思想とスタイルがあり、ボトル一本ごとにそれらが反映されている。すべてを紹介すると紙幅が尽きてしまうので、ウエスト・ソノマ・コーストを例にしたが、これがソノマ・カウンティという産地の多様性である。

取材協力/カリフォルニアワイン協会(CWI)