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ここ数年でスマートウォッチ市場は急拡大し、シニア層の間でも利用者が増えている。なぜ若者向けに開発された商品が支持を広げたのか──。その答えは、商品のメインターゲットから外れた「まだ見ぬ消費者」にあった。2025年7月に著書『イノベーション 普及する条件』を出版したハーバード・ビジネス・スクール助教授の天野友道氏に、イノベーティブな製品やサービスを普及へと導くための条件、企業が見落としがちな「製品の隠れた価値」の捉え方について聞いた。
「製品ライフサイクル仮説」の限界
──著書『イノベーション 普及する条件』では、新商品が普及する流れの枠組みとして広く知られている「製品ライフサイクル仮説」の問題点について述べています。どのような点に問題があるのでしょうか。
天野友道氏(以下敬称略) イノベーションの価値は、顧客やユーザーの「受け入れ方」によって決まります。だからこそ、イノベーションの普及を促したい企業や組織には「どのようにして価値を引き出すように促すか」という視点が求められるわけですが、製品ライフサイクルの仮説【図1】には、普及の観点が十分考慮されていません。
製品ライフサイクル仮説と似たものに「普及曲線」と呼ばれる山型の曲線があります。おおまかな考え方は、新しい商品が市場に出ると、イノベーター(先駆者)が商品を購入し、それに続いてアーリーアダプター(初期採用者)やマジョリティー(追随者)に普及していく、というものです。
製品ライフサイクル仮説や普及曲線は、「時間とともに自然に広がる」という印象を与えてしまう点で共通しています。しかし、実際の普及は「時間の関数」ではなく、「企業がどのように価値の引き出し方を設計するか」という点に大きく依存します。
これまでは時間を主軸においた普及の考え方が広まってきたわけですが、その一方、「普及の設計」が果たす役割については十分に理解されてきませんでした。
例えば、多くの製品やサービスは「一度使えば価値が分かるもの」とはいえません。反復的な利用の過程で価値が立ち上がるにもかかわらず、製品ライフサイクル仮説には、この「価値が育つプロセス」が抜け落ちています。
価値の創出を考えるには、「商品と消費者の関係性がどのようにつくられるか」にも目を向ける必要があるのです。








