未来調達研究所 コンサルティング本部長の坂口孝則氏(撮影:榊水麗)
トランプ政権の関税政策やウクライナ戦争の長期化など、不安定な国際情勢や規制強化により、企業はサプライチェーンの再構築を迫られている。地政学リスクとともに「人権遵守」も、事業継続や調達網の維持に直結する重要な論点として対応が避けられない状況となりつつある。こうした環境変化の中で企業は何に備え、どこまで把握し、どのように分散を進めるべきか。調達領域の専門家として企業を支援する未来調達研究所の坂口孝則氏に、最新の動向と実務上のポイントを聞いた。
「人権への配慮」が企業の実利に関わる時代に
――企業のサプライチェーンを取り巻く環境について、坂口さんは近年の状況をどう捉えていますか。
坂口孝則氏(以下、敬称略) サプライチェーンに関するリスクは、以前と比べて格段に高まっています。企業はこれまでに築いてきた調達網などのネットワークを前提から見直し、必要に応じて組み直す必要があると考えています。とりわけグローバルなサプライチェーンを有する企業では、「人権遵守」と「地政学リスク」を踏まえた再構築が求められます。
まず人権遵守について、強制労働などの“人権蹂躙(じゅうりん)”に関与している地域・企業の製品や材料に関しては、世界的に輸入・販売を制限する動きが本格化しています。例えばアメリカの税関・国境取締局(CBP)では、強制労働の疑いがある商品の輸入を留保する違反商品保留命令(WRO)を発出し、該当する貨物を止める措置をとっています。
すでに多くの企業が影響を受けており、あるNPOの調査によると、約1年半で17億ドルもの商品が人権問題を理由に留保されていると報告されています。対象はマレーシア、ベトナム、中国からの輸入品が多いとのことです。
欧州においても、各社の持つサプライチェーンで人権蹂躙に関与している取引先がないか、企業に確認を求める国が増えています。フランスやドイツはその筆頭でしょう。直接の取引先だけでなく、ティア2(2次取引先)、ティア3(3次取引先)まで対象が広がっているのが特徴です。仮に人権上の問題が認められた場合、是正しないといけないし、虚偽を報告すれば公共入札の禁止や制裁金支払いといった措置が取られる可能性があります。
こうした状況の中、各国の規制や企業調査が、サプライチェーン全体の透明性を強く求める方向に動いています。






