キリンホールディングス デジタルICT戦略部 DX戦略推進室 室長の野々村俊介氏(撮影:冨田望)

 デジタルを成長の軸に据え、2021年から人材育成プログラム「DX道場」を展開してきたキリンホールディングス。4年間で延べ3800人が参加し、2025年には生成AIチャットツール「BuddyAI」を国内従業員約15000名に展開した。社内から500人のアンバサダーが自発的に集まるなど、現場主導の動きが広がる。研修やツール導入を形だけで終わらせないために、同社はいかに学びを実践へつなげているのか。デジタルICT戦略部DX戦略推進室室長の野々村俊介氏に聞いた。

4年間で3800人が受講、「道場」のネーミングに込めた意図

――キリンホールディングスでは2020年にDX戦略推進室を設立して以来、DX推進に向けた人材育成の取り組みを加速させています。その背景にはどのような課題意識があったのですか。

野々村俊介氏(以下、敬称略) 背景には大きく2つの危機感がありました。1つは、日本の人口構造が変化する中で、お客さまとの関係性をどう深化させていくか、というビジネスの仕組みそのものに関わる課題です。

 特に現在注力するヘルスサイエンス領域では、お客さまのニーズが多様化する中で、よりパーソナライズドされた価値提供が求められます。しかし当社は、店舗のような物理的接点を持っていないため、デジタルを活用してお客さま一人一人と接点を持ち、価値を届ける仕組みを構築する必要性を感じていました。

 もう1つは、社内の「人」に関する課題です。労働人口が減少していく中で、社員一人一人の生産性を高め、より創造的な仕事にシフトしていかなければ、事業の再成長は望めません。こうした事業と組織、両面の課題を乗り越えるために、DXが不可欠であると判断しました。