マッキンゼー・デジタル日本統括責任者の工藤卓哉氏(右から3人目)とプリファードネットワークス共同創業者、代表取締役CTOの岡野原大輔氏(右から4人目)
写真提供:マッキンゼー・アンド・カンパニー

 マッキンゼー・アンド・カンパニーは2025年10月、デジタルおよびAIの推進体制を強化するため、マッキンゼー・デジタル日本統括責任者に同社パートナーの工藤卓哉氏を任命した。同社が工藤氏の下で注力するのは、「AIをバーチャルからリアルの世界に展開する」業界横断の取り組みだ。

 新体制の報道向け発表会と併せて開催した対談セッションでは、AIの産業実装を手掛けるプリファードネットワークス(PFN)の共同創業者、代表取締役最高技術責任者(CTO)である岡野原大輔氏が登壇し、工藤氏とAIのリアルビジネスへの実装について意見を交わした。

AIのリアル業務への実装が、日本の構造問題を解決する切り札に

 講演の冒頭で、工藤氏が日本社会の俯瞰(ふかん)的状況とマッキンゼー・デジタルのAIへの取り組み方針について説明した。

 日本経済は現在、深刻な構造的課題に直面している。国際通貨基金(IMF)統計によれば、日本は名目GDPおよび購買力平価で世界第5位の経済大国でありながら、スイスの経営大学院IMDが発表した2024年のデジタル競争力ランキングでは、31位に沈んでいる。「この背景には、生産性の停滞や産業構造の硬直性がある。これらは、マッキンゼーが日々現場でクライアントと向き合う中でも強く感じる課題だ」と工藤卓哉氏は話す。

 日本の競争力低下に大きな影響を与えているのが、労働力人口の減少だ。総務省の統計・推計によると、2024年時点で総人口は14年連続で減少傾向にあり、65歳以上の割合は過去最高の29.3%に達している。「生産年齢人口は7372万人で、全体の59.4%しかいない。先進7カ国(カナダ、アメリカ、イタリア、イギリス、ドイツ、フランス、日本)の中でも最も激しい落ち込みである。東京にいると分かりにくいが、危機はすでに始まっており、地方では採用難が事業継続を脅かす問題となりつつある」(工藤氏)。