ルドルフ2世のもと、多方面で才能を発揮
1576年、マクシミリアン2世が逝去し、24歳という若さでローマ皇帝に即位したルドルフ2世は、首府をウィーンからプラハに移します。そして、さまざまな分野の美術家たちをプラハに呼んで雇い、アルチンボルドも招かれました。
ルドルフ2世は自然物や人工物、学問的な器具など、ありとあらゆるものを集めたクンストカンマーや、膨大な絵画を集めた美術ギャラリーをつくりました。その美術コレクションは3000点以上ともいわれ、アルチンボルドをはじめとする宮廷画家たちに新たな絵も注文します。このことによって小都市だったプラハは、一躍芸術の中心地となったのでした。
アルチンボルドはルドルフ2世のために、絵画だけでなく骨董や珍しい動物の買い付けをしました。また、宮廷での式典のディレクター的な役割を担い、衣装のデザインや演出をします。祝典の行進には龍に扮した馬や本物の象を登場させ、馬上槍試合を企画するなど、無尽蔵なアイディアで新しいエンターテインメントを創出しました。
以下のデザインはルドルフ2世に献じられた馬上試合の装飾デザイン(1585年頃)で、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵するものの一部です。
槍を持つ女 ペン、青の淡彩・紙 29.4×20.8cm フィレンツェ、ウフィツィ美術館
コック ペン、青の淡彩・紙 30.5×20.2cm フィレンツェ、ウフィツィ美術館
龍の仮面をかぶった男 ペン、青の淡彩・紙 29.0×19.1cm フィレンツェ、ウフィツィ美術館
これ以外にも水力技師や暗号の発明、楽器の発明など、芸術と科学の境界を超えた多面的な活動で、アルチンボルドはハプスブルク家に大きな貢献をしたのでした。
余談ですが、ルドルフ2世は36年間、皇帝として統治し膨大なコレクションを築きますが、残念ながらそれらの多くは皇帝の死後、略奪に遭います。わずかに残ったものはウィーンの美術史美術館と自然史博物館に収蔵されています。1891年に開館したこの美術館と博物館は、全く同じ造りで向かい合って建っています。両館ではルドルフ2世とアルチンボルドの時代、ヨーロッパにおいてハプスブルク家が並ぶものがない栄華を誇った王家だったことを感じることができます。機会があればぜひ、訪れてみてください。
参考文献:『アルチンボルド展』カタログ シルヴィア・フェリーノ=パクデン、渡辺晋輔/責任編集 国立西洋美術館・NHK・NHKプロモーション・朝日新聞社/発行
『綺想の帝国−−ルドルフ2世をめぐる美術と科学』トマス・D・カウフマン/著 斉藤栄一/訳 工作社
『西洋美術の歴史5ルネサンスⅡ 北方の覚醒、自意識と自然表現』秋山聰・小佐野重利・北澤洋子・小池寿子・小林典子/著 中央公論新社
『名画への旅10 北方ルネサンスⅡ 美はアルプスを越えて』木村重信・高階秀爾・樺山紘一/監修 高橋裕子・小池寿子・高橋達史・岩井瑞枝・樺山紘一/著 講談社
タッシェン・ニュー・ベーシック・アート・シリーズ『ジュゼッペ・アルチンボルド』ヴェルナー・クリ―ゲスコルテ/著 タッシェン・ジャパン
『アルチンボルド アートコレクション』リアナ・デ・ジローラミ・チーニー/著 笹山 裕子/翻訳 グラフィック社
『表象の迷宮 マニエリスムからモダニズムへ』谷川渥/著 ありな書房
『美術論集 アルチンボルドからポップ・アートまで』ロラン・バルト/著 沢崎浩平/訳 みすず書房
『名画の読解力 教養のある人は西洋美術のどこを楽しんでいるのか!?』田中久美子/監修 エムディエヌコーポレーション
TJ MOOK『奇想の宮廷画家 アルチンボルドの世界 ハプスブルク家に愛された「だまし絵」の名手』大友義博/監修 宝島社
『芸術新潮』2017年7月号 新潮社
