マクシミリアン2世のコレクションの影響

 アルチンボルドの絵に大いに影響を与えた、神聖ローマ皇帝との関わりを見ていきましょう。アルチンボルドは、1562年、フェルディナント1世(1503-1564年)の治世の時に招かれてオーストリア・ハプスブルク家の宮廷画家となります。

 1564年、フェルディナント1世が逝去すると、その子であるマクシミリアン2世(1527-1576年)が即位します。アルチンボルドは1569年、マクシミリアン2世に《春》《夏》《秋》《冬》という連作「四季」(1563年)と、《大気》《火》《大地》《水》という連作「四大元素」(1566年)を献呈します。

「四季」と「四大元素」には、皇帝やハプスブルク家を讃える寓意が散りばめられています。これらについては第3回で詳しく紹介しますが、マクシミリアン2世に贈る際、ミラノ出身のアルチンボルドの協力者で、人文主義者として助言を与えていたとされるジョヴァンニ・バプティスタ・フォンテオの詩が添えられていました。

 私は皇帝(カエサル)をいやが上にも誉めたたえよう。

 (中略)

 新年には贈り物を持ってゆこう。

 私はあなたを誉めたたえる。さまざまに形を変える一年の季節をもって。

 また、四大元素を眼にみえる図像としたものをもって。

 ここにそれらを献上いたします。(後略) 

       トマス・D・カウフマン『奇想の帝国』(工作舎刊)より

「四季」と「四大元素」は皇帝から高い評価を得て、その寝室に飾られたといいます。また、アルチンボルド自身による別バージョンが何組か制作され、フリードリヒ・アウグスト1世(ザクセン選帝侯)への贈り物にするなど、ハプスブルク家の栄華を世に誇るプロパガンダにも用いられました。

 高い教養と知性を持ったマクシミリアン2世は、宮廷を学問の中心地とするべくヨーロッパ中から学者を招聘しました。マクシミリアン2世はとくに自然科学への関心が深く、ウィーン周辺に動物園や植物園をつくり、新大陸やアジアの動植物を集めました。アルチンボルドはここに入って自由に写生することが許されていました。

 集められた学者たちは植物や魚類、鳥類、哺乳類の分類に取り組み、これらをリアルに描くことを画家に求めました。アルチンボルドももちろんそのひとりです。博物学的な視線で描いたリアルな動植物は生物学的にも正確で、後の作品に大いに生かされました。

 アルチンボルドが描いた動植物の素描は複数の冊子となって残り、現在、ウィーンやドレスデン、ボローニャの図書館に収蔵されています。

「鳥」16世紀後半 水彩・羊皮紙 ウィーン、オーストリア国立図書館所蔵
「鹿」16世紀後半 水彩・羊皮紙 ウィーン、オーストリア国立図書館所蔵

 また、この時代の各地の君主は、オウム貝の殻、カメの甲羅、ダチョウの卵といったエキゾチックで珍奇なコレクションを集めることに夢中になっていました。これらを集めた部屋を「驚異の部屋=クンストカンマー」といいます。マクシミリアン2世は従兄弟にあたるスペイン国王フェリペ2世らとクンストカンマーのコレクションを競いました。皇帝たちが集めた珍奇なものを眼にしたことも、アルチンボルドの作品に大きく影響しています。