BYD創業者の王伝福(ワン・チュアンフー)氏写真提供::日刊工業新聞、©Alexander Pohl/Alto Press via ZUMA Press/共同通信イメージズ ※Germany Rights Out
生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。
比亜迪(BYD)創業者・王伝福(ワン・チュアンフー)氏は、バッテリーの新素材に頼らず、安価なリン酸鉄を構造革新で実用化し、同社を世界首位に押し上げた。技術者と経営者、二つの顔を併せ持つ彼の「破壊的イノベーション」とは何か。
BYDの車載電池のイノベーション
イノベーションは、単なる先端技術の発明だけでは成立しない。それが普及し、ビジネスが経済的に成功することで初めてイノベーションと呼べる。それを実現するためには、スペック追求よりも、実用的な改善とコスト削減こそが最大の価値となる。
バッテリーの最先端技術では、パナソニック等の日・欧米勢がリードし、高出力・高エネルギー密度の新素材の開発にしのぎを削っている。しかし、実際は、既存技術の実用的な改善によって普及=ビジネスとしての成功が生まれる場合が多いのである。
EV(電気自動車)が抱える課題の一つとして、内燃機関にもまだ相当な優位性があると考えられていた背景には、電池の原料であるリチウム、高純度ニッケル、コバルト、カドミウムなどのレアメタルが希少で供給が安定せず、採掘に伴う環境コストも大きく、持続可能性に乏しいという問題があった。
比亜迪(BYD)の最大の功績は、車載電池のレアメタル依存の問題を相当程度解決したことにある。






