BYD創業者の王伝福(ワン・チュアンフー)氏(撮影:2008年10月)写真提供:©Julien Tan/Utuku/ROPI via ZUMA Press/共同通信イメージズ ※France, Germany and Italy Rights Out
生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。
EV(電気自動車)で世界をリードする中国の比亜迪(BYD)。ブレードバッテリーや独自プラットフォームなど大胆な革新でテスラをしのぎ、EV販売台数で世界トップに立った。なぜこれほどの競争力を築けたのか。創業者・王伝福(ワン・チュアンフー)氏のイノベーションに迫る。
トヨタが中国で自前の研究開発をする理由
トヨタ自動車は2027年開始を目指し、上海に10万台規模の完全子会社工場を設立する計画を決定した。レクサスEV(電気自動車)とバッテリーの製造・研究拠点、サプライヤーや自動運転系企業との連携も視野に入れ、1000人を新規雇用して開発・製造体制を構築するという* 。
*日本経済新聞2025年2月5日
なぜ中国での開発なのか? それは、中国がEVの最大市場であるだけでなく、中国がEVとバッテリーの世界最先端のイノベーション拠点だからである。中国のバッテリー供給チェーンは圧倒的に強く、EV関連技術・サプライチェーン・開発スピードで先行する「グローバルイノベーション拠点」に成長しており、トヨタもそのエコシステムの中でしか世界の最先端で戦うための研究開発ができないからだ。
日本では一般には中国のEVの評価は低い。例えば、しょせん技術は日本企業のパクリ、EVの墓場で大量のEVが廃棄されている、といったYouTube動画が数多く存在しそれなりに再生されている。コメント欄を見ると、そうした情報で心の平安を得ている人も多いようだが、トヨタはそうではないということだ。
特に比亜迪(BYD)は、中国最大のEVメーカーであるだけでなく、世界の主要自動車メーカー各社と比較しても世界最大規模の研究・開発費を投入し、研究開発(R&D)エンジニア数(全体)も約11万人と自動車メーカーとして最大規模である。現在、BYDが世界最先端を走っているとされる技術には以下のようなものがある。






