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統合報告書は、企業の財務情報と非財務情報を統合した“企業の見取り図”とも言える重要資料だ。本連載では、株式アナリスト出身の椎名則夫氏が、投資家視点から注目すべき統合報告書を厳選して紹介する。
今回はオムロンを取り上げる。ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)では測り切れない企業価値を映すROIC(投下資本利益率)。先駆者オムロンはROIC経営を深化させてきたが、全社をどう動かし、成長を支えてきたのか。その仕組みに迫る。
オムロンが統合レポートで展開するROIC経営
一般的な上場企業は、複数の事業を同時運営しているケースが多い。しかし、その運営方法は、必ずしも事業間のシナジーを最大限に活用する形ではない。むしろ、各事業を相互に関連性の低い事業群として区分し、安定して利益を生み出すキャッシュカウ(金のなる木)から得られる資金を成長事業に振り向けることで、企業価値を最大化する方法が一般的であろう。
こうした方法は「事業ポートフォリオ管理」と呼ばれ、古くからボストン コンサルティング グループが考えた「BCGマトリクス」などのフレームワークを通じて普及してきた。これに資本市場からの規律という要素を取り込んだ運営方法の代表例が「ROIC(投下資本利益率)経営」であり、オムロンは日本においてその先駆者である。
オムロンは2013年よりROIC経営を実践している。まず、オムロンのROICの定義を確認しよう。
ROIC=(当社株主に帰属する当期純利益)/(純資産+有利子負債)
これはバランスシートに示される株主および貸主(および社債保有者)から調達した金額に対して、株主にどれだけ効率よく会計上の利益をもたらしたのかを計測する指標である。






