しずおかフィナンシャルグループ 執行役員 チーフイノベーションオフィサーの大塚毅純氏(撮影:榊水麗)

 地域金融機関は、地域経済を“縁の下”で支える存在──しずおかフィナンシャルグループ(しずおかFG)がそんな常識を覆そうとしている。地域が人口減や産業構造の転換に直面する中、「グループ事業開発部」を再編し、同社グループの事業領域拡大を加速する体制を整えた。なぜ、しずおかFGは自らイノベーションを起こす“当事者”になろうとしているのか。事業開発を率いるチーフイノベーションオフィサー(CINO)の大塚毅純氏が語る、地域金融機関の新しい使命と覚悟とは。

静岡は過去に大規模な産業転換を成功させている

──しずおかフィナンシャルグループは、グループの新規事業開発や、社会課題の解決につながるイノベーションの創出に力を入れています。金融機関が積極的にイノベーションを生み出そうとする狙いは何でしょうか。

大塚毅純氏(以下、敬称略) 当社は静岡を主な営業基盤とする総合金融グループであり、当社の成長は、地域の産業や経済の成長と不可分の関係にあります。だからこそ地域が変わろうとするときに、企業や住民が求めるサービスを提供するために、私たち金融機関も変わっていかなければいけません。

 静岡では、人口減少、高齢化による経済縮小が避けられない中、基幹産業である自動車もEV化という大きな波に直面しており、周辺産業に大きな影響をもたらしています。これが、私たちが危機感を持つ理由の一つです。

 しかし静岡は、かつて産業の大転換を迫られ、それを乗り越えてきた地域でもあります。歴史をさかのぼると、遠州と呼ばれる静岡県西部地区は、江戸時代から織物、繊維産業が盛んでした。トヨタの源流である豊田自動織機の創業者・豊田佐吉氏もこの地の出身で、世界的な繊維産業の中心地として栄えました。

 戦後の高度成長期に、日本全体の産業構造が軽工業から重工業へとシフトし、繊維産業の中心地は東南アジアへと移っていきました。地域にとっては、基幹産業を失う危機を迎えたわけですが、その中で自動車、二輪車などの新たな産業を生み出し、育てることに成功しました。そうして、現在の静岡の産業構造が形づくられてきたのです。

 このように、静岡には民間企業の力で大きな転換を成し遂げてきた歴史があります。ですから、今、直面している変化も乗り切れると確信しています。