デンソー 研究開発センター マーケティングオフィス オフィス長の伊藤好文氏(撮影:阿部昌也)
100年に一度の大変革期にあるといわれる自動車業界。従来のように技術を進化させるだけでは顧客価値を創出することが困難になりつつある。その中で売上高世界第2位の自動車部品メーカー、デンソーは「開発者全員がマーケター視点を持つ」ことを目指し、組織変革を進めてきた。開発体制および開発者の意識はどう変化したのか。同社 研究開発センター マーケティングオフィス長の伊藤好文氏に話を聞いた。
コンピューター業界で経験した変化が起きていた
──伊藤さんはソニー、VAIOを経て2017年にデンソーに入社し、商品開発体制の変革を進めてきました。入社当時、デンソーはどのような状況だったのでしょうか。
伊藤好文氏(以下敬称略) 私がソニーで経験した2000年代初頭の状況と酷似していると感じました。「軽薄短小」という技術的な差異化が価値を生んでいた時代から、Appleに代表されるソフトウエア基軸の体験価値重視へと転換する時期です。
自動車業界では、燃費性能や走行性能の向上といった技術の正常進化が顧客価値に直結していた時代から、基本性能がある程度満たされた中で新たな価値をどう創出するかという段階にシフトし、エンドユーザーを理解することなしには製品を作れない時代になっていました。
──そうした状況を踏まえて、デンソーが抱えていた課題はどのようなものでしたか。
伊藤 主に3つの課題がありました。第1に生活者ニーズの理解不足です。社内で「顧客」と呼ばれていたのは完成車メーカーのことであり、実際にクルマを使うエンドユーザーへの意識は希薄でした。
第2に技術至上主義、特にハード至上主義の傾向でした。技術の差異化を重視する一方で、その価値を顧客が求めているかの検証が不十分で、不採用や手戻りが発生するケースが増えていました。
第3に情報の縦割りです。各事業部が個別に外部環境分析を行い、重複作業が発生する一方で、他事業部にとって有益な情報が共有されていませんでした。ただし、これは逆にイノベーションの種が眠っている状況でもあり、デンソーの幅広い事業領域の情報を集合知化できれば、新たな組み合わせによるイノベーションが生み出せる可能性があると考えました。






