写真提供:fizkes/Shutterstock.com
「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。
変化の激しい時代に、どうすれば持続的に新たな価値を生み出せるのか。他の手法とも柔軟に組み合わせ可能で、自社の競争優位を築く実践手法「MCEモデル」とは?
創造性組織工学を理論化した「MCEモデル」
戦前の日本において、航空機産業は複葉機から単葉機への進化の過程で、設計者の職能が細分化され、専門ごとの集団として組織されるようになった。これにより、チーフデザイナー制度が誕生した。
この制度をベースに構築されたトヨタ製品開発システムと、創造性組織工学(Creative Organized Technology)は、組み合わせて活用することが可能である(第19回)。
これらはいずれも日本で生まれた価値創造システムであるが、世界には他にも体系的な手法が存在する。代表的なものとしては、マサチューセッツ工科大学(MIT)で発展したMOT(技術経営)や、ウェブサービス分野で広く実践されているデザイン思考などがある。
既存課題を構造化し、合理的に解決する枠組みとしては、ISO15288(MIL-STD-499Aの体系的アップグレード版)や、グーグルやマイクロソフトでエンジニアリングマネージャーを務めた及川卓也氏の「Core/Why/What/How手法」も挙げられる。
また、トヨタの原価企画で用いられるVE(Value Engineering:価値工学、最低のコストで必要な機能を達成することを目指す考え方)や、川喜多二郎氏が生み出した発想支援ツールである「KJ法」、中山正和氏が生みだした言葉の意味から発想を展開する「NM法」のように、部分的かつ目的特化型の手法もある。すなわち、価値創造に資する体系やツールは、すでに多様に整備され、活用可能な状態にあると言える。
しかし、何より重要なのは、自社独自の価値創造システムを体系的に構築し、それを人材とともに継続的に磨き上げていくことである。その象徴的な例が、トヨタが創り上げたトヨタ製品開発システムである。同社はこの仕組みを、実践知に根ざした自社固有の強み(コアコンピタンス)として確立してきた。






