第一三共 グローバルDX DX企画部長の上野哲広氏(撮影:冨田望)
がん治療薬へのシフトを進める第一三共が創薬プロセスのDXに挑んでいる。「質の高い薬を、より早く、より安く届ける」という観点から、生成AIなど先端技術の活用に取り組む。一方で、医薬品ならではの厳格な品質管理をいかに維持していくのか。同社のDXをリードするグローバルDX DX企画部長・上野哲広氏に、テクノロジーと信頼性の両立に挑む取り組みについて聞いた。
がん治療薬へのシフトがDXを加速させた
――第一三共は2016年以降、循環器系治療薬から、がん治療薬の創薬へと事業の軸足を移しました。これにより、データ基盤やデジタルの活用にはどのような変化があったのでしょうか。
上野哲広氏(以下、敬称略) がん治療薬の開発では、安全性に対する配慮が一段と重要になります。さまざまな副作用が想定されるため、研究、開発、治験、さらに市販後の全ての段階で情報を収集・分析し、医師に迅速に提供する体制が求められます。
新しい薬が世に出て間もない段階では、臨床現場での使用実績が少なく、どのような副作用があるかといった情報を把握できていないケースがあります。創薬企業として、クイックに臨床試験や治験のデータを提供できるかが大きな課題になるため、膨大なデータを素早く検索できる仕組みを作る必要がありました。
また、がん治療薬は非常に高価で、開発期間も長くなりがちです。開発スピードを上げることは、競争力の強化に加えて、コストの削減や患者さんへの薬の早期提供にもつながります。質の高い薬を、より早く、より安く届けるという観点で、ますますDXの重要性は増しました。






