写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
酒類・飲料事業、医薬事業、ヘルスサイエンス事業を柱とした事業ポートフォリオ経営に加え、それを支える新たなファイナンス組織の構築にも注力しているキリングループ。どのような組織、プロセスで財務戦略を立案しているのか。ファイナンス組織の人材育成方法は? 経営管理・FP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画・分析)の専門家である池側千絵氏が、キリンホールディングス財務戦略部長の松尾英史氏を迎え、CFO(最高財務責任者)組織とFP&A体制について聞いた。
同じ目線・異なる役割を持つ2つのFP&A
池側千絵氏(以下、敬称略) キリンと言えば「ビール」のイメージですが、現在ではさまざまな事業を展開するグループ企業へと進化しています。いつ頃から事業ポートフォリオ経営に取り組まれているのでしょうか。
松尾英史氏(以下、敬称略) 1907年の創立後、酒類・飲料事業で拡大し、1980年ごろに多角化に乗り出しました。そのころから事業ポートフォリオ経営を意識してはいましたが、具体的に動き始めたのは、2006年に長期経営構想「キリンビジョン2015」を発表して以降です。
M&A(合併・買収)や事業投資が増えて各事業の拡大が進み、翌2007年には事業持ち株会社から純粋持株会社に移行。PL(損益計算書)重視からBS(貸借対照表)を意識した経営に転換していく中で、事業ポートフォリオ経営が定着していったと感じています。現在、酒類・飲料事業、医薬事業、ヘルスサイエンス事業という三領域で事業ポートフォリオを構成しています。
池側 事業ポートフォリオ経営を進める上で、CFO(最高財務責任者)組織とFP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画・分析)が大きな役割を果たしているそうですね。それぞれどのような組織で、どんな役割を担っているのでしょうか。
松尾 私が所属する「財務戦略部」はCFO組織の中にあり、キャッシュフローの最大化、非財務目標の価値の顕在化、ヘルスサイエンス領域の価値化に取り組んでいます。その実現のためにテーマを設定し、それらを元に目標管理や社内戦略を策定しています。
FP&Aについては、コーポレートと事業会社それぞれに置き、役割を分けています。事業会社のFP&Aは企画部に所属し、事業計画をつくる過程に深く関わりながら、定量計画の策定や財務指標の達成に向けた提言などを行います。マーケティングや生産、営業など、各機能部門にもファイナンス人材を置き、連携しています。
一方、コーポレートのFP&Aは財務戦略部の一部署として設置しています。経営企画部と共に事業会社と戦略対話を行い、期待値の伝達やインサイト(洞察)の提供を通じて、全社的な財務戦略を立案します。いわば「横串」を通していくイメージです。
コーポレートと事業会社とで役割の違いはあれ、企業価値の最大化に貢献するという点では一致しています。そのため、ファイナンスネットワークで連携しながら、月次モニタリングや財務モデルの見直し、そしてコーポレートと事業会社が方針を擦り合わせる戦略対話を軸に、それぞれの活動を進めています。








