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 生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。

 今回取り上げるエヌビディア(NVIDIA)は、創業以来ゲーム機用のグラフィックスをきれいに描くためのプロセッサであるGPU(Graphics Processing Unit:画像処理半導体)の開発で培った強みを生かし、AIプロセッサのメーカーとなった。没入感のあるグラフィックスを作るためのGPUが、なぜAIプロセッサに変身できたのか? 事業コンセプトの変遷から、創業者ジェンスン・ファンの経営姿勢に迫る。

ゲーム用GPUがAIにつながった技術的理由

 コンピュータ上で絵を描くには、直線ではなく曲線をきれいに描く必要がある。さらに、2次元だけではなく奥行きのある3次元の物体も表現する必要がある。

 ゲームでは物体を別の角度に回転させ、物体の裏を見たりすることもできるが、それを回転させるには座標を変換するための大量の計算が必要となる。

 複雑で写実的で立体的な絵を描くときに、人間と全く違うコンピュータの強みが発揮される。それは一つの画面を何百にも分割し、並行的に絵を描く作業ができるという点である。

 GPU(Graphics Processing Unit:画像処理半導体))はその名の通り、もともと絵を描くためのチップであり、この作業には、「画面の中のたくさんの点(ピクセル)を、一気に処理する」ことが求められている。

 コンピュータによる作画では、分割した部分を同時に描くことができる。GPUにはそうした演算器が大量に集積しているため、それらを同時に計算させることで1枚の絵を高速に仕上げることが可能となる。つまりGPUは、「同じような計算を、大量に、同時に行うのが得意」であり、これが、AIと非常に相性が良いのである。