ブラックバッジは誰のためのロールス・ロイスか?
では、ブラックバッジはどのような背景から生まれたのか。前述のアイリーン・ニッケインに聞いた。
「マーケティングの視点からいえば、ブラックバッジは“Alter Ego(別人格、分身などを意味する)”を実現するために誕生しました。通常のロールス・ロイスでは真面目過ぎるし、年齢が高いと見られかねない。そんな風にとらえる方々のために、ブラックバッジは誕生したのです」
ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋リージョナル・ディレクター アイリーン・ニッケイン
冒頭でも記したとおり、ブラックバッジはニューリッチと呼ばれる若年層をターゲットに据えた戦略から生まれたものだが、その思惑は成功を収めたのだろうか?
「ご指摘のとおり、ブラックバッジは若いお客様のために設定されました。事実、アジア太平洋地区でも着実にブラックバッジはシェアを拡大していきましたが、その後、興味深い現象が起こりました。必ずしも若いとはいえない世代からもブラックバッジをオーダーいただくようになったのです。いまでは世代を越えてブラックバッジは支持されるようになりました」

発売から10年近い歳月を経たブラックバッジには、もうひとつ面白い変化が見られるようになったとアイリーンはいう。
「もともとブラックバッジは、その名のとおり黒、もしくはダークなカラーをメインに据えていましたが、近年ではボディーやインテリアに明るいカラーを選ぶお客様も増えています」
しかも、ビスポークの設定が極めて豊富なロールス・ロイスでは、ブラックバッジであろうとスタンダードなシリーズであろうと、基本的にどんなカラー、どんな素材でもオーダーできるので、こうなるとブラックバッジの外観上の特色はほとんどなくなってしまうことになる。
どのロールス・ロイスでも、ビスポークプログラムで自分だけの1台をつくれる
「そのとおりです。残るのは、エクステリアに使われるティンテッド・シルバーだけです。これはブラックバッジだけに許された設定となります」

それでもブラックバッジが人気なのは、他人とは異なるロールス・ロイスを求める層が少なくないということなのだろう。その意味でいえば、同社が掲げるAlter Egoというキーワードが、ブラックバッジをもっとも的確に表現しているようにも思える。
自動車へのビスポークオーダーのみならず、写真のように4種類の板材と13種類のレザーからカスタマイズ可能なチェスセットのようなロールス・ロイスならではのクオリティの商品も用意されている
では、今後、ブラックバッジになにか新しい展開が計画されているのだろうか?
「実は、アジア太平洋地区の少なくない数のお客様から『ファントムのブラックバッジが欲しい』との意見を頂戴しています。ファントムは特に日本で人気ですが、日本のお客さまからも同じような声が届いています。今後の計画についてはまだ何も決まっていませんが、非常に興味深いご意見なので、そういた声があることをイギリス本社には報告しました」
アジア太平洋地区を統括する人物が、顧客とじかに会話し、その内容を本社に報告するというのは、自動車メーカーとして異例なことのはず。しかし、私は前CEOのトルステン・ミュラー・エトヴェシュからも、顧客と直接やり取りしているとの話を聞いたことがあるので、これはロールス・ロイスではごく当たり前に行われていることなのかもしれない。そして市場からダイレクトに吸い上げられた声は次世代の製品作りに反映させていく。こうしたマーケティング手法にこそ、ロールス・ロイスが超高級車市場で大きな成功を収めている理由の一端があるはずだ。
全長×全幅×全高:5,490×2,015×1,575mm
ホイールベース:3,210mm
車重:2,900kg
最高出力:485kW(659PS)
最大トルク:1075Nm(スピリテッド・モード時)
フロントモーター最高出力:190kW/305Nm
リアモーター最高出力:360kW/595Nm
バッテリー容量:102kWh
消費電力:23.8-22.2kWh/100km
一充電航続可能距離(WLTP):493-530km
0-100km/h加速:4.3秒
乗車定員:4名
価格:5614万円~
