大谷 達也:自動車ライター

若いロールス・ロイス
120年近い歴史を有し、いまも世界最高の超高級車との誉れも高いロールス・ロイス。近年、彼らがニューリッチと呼ばれる若年層をターゲットに据えた戦略でビジネスを拡大していることはオートグラフでも紹介したが、そうした戦略の中心ともいえる存在が、ここで紹介するブラックバッジ・シリーズである。
そんなブラックバッジ・シリーズの最新作であるブラックバッジ・スペクターの試乗会が先日、行われたので、その模様をリポートしつつ、アジア太平洋地区を統括するディレクターのアイリーン・ニッケインから聞いたブラックバッジ・シリーズのコンセプトや最新事情についても触れておこう。
まずはブラックバッジそのものについて。
ブラックバッジが初めて設定されたのは2016年のことで、対象となったモデルは当時ラインナップされていた2ドア・クーペのレイスと4ドア・サルーンのゴースト。どちらも、シルバーのクローム仕上げとされているフロントグリルなどを暗い色調のティンテッド・シルバーに改めることで精悍さを増すとともに、エンジンやギアボックスのセッティングを微妙に変更してパフォーマンスを高めているのが特徴。そのターゲットとされたのは、いままでのロールス・ロイスでは飽き足らない若い富裕層だった。
その後もブラックバッジ・シリーズはラインナップを拡大していき、やがてはフラッグシップのファントムを除く全モデルにブラックバッジが設定されるようになったほか、モデルチェンジを受けるたびに進化を続け、現在ではゴーストⅡとカリナンⅡの2モデルに設定されている(レイスと、その後でデビューしたコンバーティブルのドーンは、ベースモデルともどもブラックバッジも生産終了とされた)。
ゴーストⅡとカリナンⅡのブラックバッジ(写真はロールス・ロイスから)
そうしたなか、ロールス・ロイス初のEVとして誕生したスペクターにも、先ごろブラックバッジが追加された。その名をブラックバッジ・スペクターという。

ブラックバッジ・スペクターはこれまでのブラックバッジとはちがう
ただし、ブラックバッジ・スペクターの位置づけは、従来のブラックバッジ・シリーズとは大きく異なっている。
まず、ゴーストⅡとカリナンⅡのブラックバッジは、エンジン・パフォーマンスの向上代が29ps/50Nmと決して大きくなかったのに対して、スペクターでは最高出力が74ps引き上げられて659psに、最大トルクは175Nm強化されて1075Nmとなった。いずれも、ロールス・ロイスとしては史上最強のスペックだという。

ドライビングモード切り替えが搭載されたのも、ブラックバッジ・スペクターの特徴といっていい。ロールス・ロイスは自分たちのパフォーマンスについて“エフォートレス” すなわち努力せずに走れると表現してきた。したがって、ドライバーにスイッチ操作を強いるドライビングモード切り替えは、いわば彼らの主義に反するもの。しかし、ブラックバッジ・スペクターでは“インフィニティ”と呼ばれるドライビングモードを新たに設定し、これを選ぶと、ブラックバッジ・スペクターのポテンシャルがフルに発揮されるという。
