旭タンカーが保有・運行する世界初の電動タンカー「あさひ」(提供:日刊工業新聞/共同通信)

 欧州や中国で進む、自動車以外のモビリティの電動化。建設機械業界の動向を取り上げた第8回に続いて、今回は船舶の電動化に焦点を当てる。船舶電動化伸展の理由、その利点と課題とは? そして日本の船舶メーカーはどのようにこの状況に対応すべきなのか?世界初の量産型電気自動車「i-MiEV」(アイ・ミーブ)の開発責任者でありモビリティの電動化を支援する日本電動化研究所の和田憲一郎氏が解説する。

再び注目を集める電動船舶

 船舶の電動化の歴史は非常に古く、その起源は19世紀にまでさかのぼる。1886年、ドイツのシーメンス社は世界初の電動ボート「エレクトラ」を製作し、ベルリンのシュプレー川において航行を実施した。この船舶の動力源には、総重量1800kgに及ぶ蓄電池80個が使用され、5.9kWhの出力を発揮した。しかし、蓄電池の重量が過大であったことに加え、船内のスペースを大きく占有し、さらに航続距離の短さが課題となったため、電動ボートとして長続きしなかったようだ。

 日本においても、電気推進船の導入が進められていた。1920年、東洋汽船は浅野造船所において貨物船「美洋丸(びようまる)」を建造し、同船に電気推進システムを採用した。このシステムでは、タービン機関を用いて発電機を稼働させるターボエレクトリック方式が採用されている。美洋丸は戦時中に軍隊輸送船として運用されていたが、1945年6月の空襲によって被弾損傷し、役目を終えている。

 このように、船舶の電動化は早期から試みられていたものの、技術的課題が多く、実用化には時間を要した。しかし、現代においては、バッテリー技術が進化すると同時に環境負荷の低減が求められる中、電動船舶の開発が再び注目を集めている。