サイズを越えて上質

 走らせてみると、これがコンパクトサイズとは思えないほどよく作り込まれていて驚かされる。

 まずは乗り心地がいい。サスペンションはソフトな印象だけれど、ボディーはどっしりとしていてほとんど揺れない。この辺は、重いバッテリーを床下に積むことで重心高を下げたEVによくある乗り味だが、サスペンションの滑らかで質の高い動き方は完全にクラスを超えたもの。ボディーの剛性感はしっかりとしていて静粛性も良好。これだけで「小さな高級車」と呼びたくなる出来映えに思えた。

 ステアリングは応答が素早いものの不自然なところはなく、操舵した感触からも安っぽさは感じなかった。

 ドライブトレインの反応も自然だった。

 わざとアクセルペダルを強く踏み込んでも、乗る人を驚かせるような急加速を見せるわけでもなく、交通の流れにあわせた走りが無理なくできる。また、コナはEVでよくあるワンペダル・ドライブ(アクセルペダルを戻すだけで適度な減速Gが発生し、ブレーキペダルを踏まなくてもアクセルペダルだけで通常のドライブが可能なシステムのこと)機能を装備しているが、アクセルペダルを戻したときの反応にも唐突さがなく、これだったらEVに初めて乗るドライバーも戸惑うことはないだろうと思える仕上がりだった。

 安全に関わるハイテク装備もひととおり揃っている。なかでも面白いのが、ウィンカーレバーを操作すると、曲がる(もしくは車線変更する)側の後方の様子がメーターパネル内にデジタル表示される機能。同じ機能はアイオニックにも搭載されていたが、安全性に寄与するうまいアイデアだと思う。

ウインカーが出ている側の後方の映像がメーター部に表示される

テスラと比べてみるならば……

 試乗車はラウンジと呼ばれる高級グレードだが、それでも価格は489万5000円と、EVにしてはお手頃だ。それでも価格は489万5000円と、EVにしてはお手頃だ。なお、コナ・ラウンジは64.8kWhのバッテリーを積んでいて、航続距離は541kmと発表されている。

 では、テスラで話題にした販売方法やサービス体制はどうなのか。

 ヒョンデも販売は基本的にオンラインに限られている。ただし、直営のショールームが横浜と大阪にあって、そこでは実車に触れたりサービスを受けることも可能。もうひとつ興味深いのが、車両整備を行う「協力整備拠点」を北は北海道から南は九州・鹿児島にまで用意している点。その数は順次増えているというが、2025年3月時点で数えたらほぼ60拠点に上った。ちょっとした輸入車ブランドに迫るネットワークだ。

 日本で再出発したヒョンデはまだ歴史が浅く、販売台数も限られている(2024年10月の段階で1511台)ことから、不具合やサービスに関する不満などはほとんど聞こえてこない。いずれにせよ、これらは私の実体験ではなく、あくまでも伝聞に過ぎないので、テスラと同じように「参考情報」とさせていただく。

 それでも、テスラとヒョンデに明快な違いがあるとしたら、テスラが創業およそ20年のEV専業メーカーであるのに対して、ヒョンデが創業から間もなく60年を迎える総合自動車メーカーであることだろう。

 もちろん、歴史の長い短い、EVの専業メーカーであるか否かが企業としての、もしくは製品としての優劣を決定づけるとは思わない。人によっては「EV専業メーカーはEVを知り尽くしているから信頼できる」とか「歴史の浅い企業のほうが既成概念に捕らわれない新しい発想の商品を生み出せる」と考えるかもしれないし、ヒョンデのように歴史が長くて様々な製品を手がけてきたメーカーのほうが安心と思う向きもあるはず。こうした部分について、私は読者の皆さんにひとつの考え方を押しつけるつもりはない。

 というわけで、またまた玉虫色の結論とまってしまったことを、皆さんにはお詫び申し上げたい。