「something happy」シリーズ、誕生

 ならば、自分の“糀”を好きになってくれたお客さんたちにも、美味しいと感じてもらえるどぶろくを造りたい。それがうまくいけば、これまでお世話になってきた日本酒業界と発酵の世界を橋渡しできるのではないか——。池島さんはそう考えた。

 そこで誕生したのが、どぶろくのもろみに副原料を使う「something happy」シリーズ。フレッシュハーブや、滋賀県野洲市の三上山麓で栽培されたイチゴを使うものなど、シーズンによって数種類がリリースされている。その味わいはいずれも驚くほど爽やかで、これまでのどぶろくの概念すら変えてしまうほどのインパクト!

そのまま食べても美味しく、米を溶かしきる“糀”をつくる池島さん。爽やかな酒質を追求するため、自然農法の米を原料にする

 ちなみに「something happy フレッシュハーブティ」に使われているのは、知る人ぞ知る広島県の“スーパースターファーマー”、梶谷農園のフレッシュハーブミックス。湯につけて香りを引き出したフレッシュハーブティを仕込水として使い、茶殻として残った茎や葉も一緒にもろみに漬け込んで発酵させている。

 

食べても美味しい“糀”をつくる

 また、池島さんのどぶろく造りの大きな特徴のひとつが、専門の“糀”づくり。清酒用の米麹と違い、みそや甘酒用の“糀”でどぶろくを仕込んでいる。

「清酒はその名の通り、もろみを絞って固形物を除き、透明な液体にして飲むことが大前提です。一方、みそや甘酒の“糀”は、そのものを食べて美味しいことが必須条件。どぶろくも絞らずにどろどろの液体を飲むものなので、後者の“糀”でつくるべきというのが私の考え方です」

滋賀県長浜市に開業した「湖のスコーレ」内に入居。念願だったどぶろく醸造に、ついに着手した

 大きく違うのが、麹室の湿度。乾燥ぎみの環境でつくる清酒の米麹と違い、池島さんは天井からポタポタと水滴がしたたり落ちるほど湿度の高い環境で“糀”をつくる。精米歩合は飯米と同じ、90%程度のものを使う。

「清酒は酒粕(固形物)をより多く除いたほうが、きれいな酒質に仕上がるといわれます。つまり、すぐに全部溶けてしまうようではダメなんです。一方、みそ屋の“糀”はすぐに溶けて、その味わいが濃厚であればあるほど最高! 見た目は米の表面がフワフワの長い菌糸で覆われ、ガンガン自己消化しまくっているようなやわらかい“糀”です。これで仕込むと甘酒にしても、白みそにしてもすぐに溶け、濃厚なうまみが出ます」

 

メキシコ料理とも驚きの相性のよさ

  濃厚なみそは“うまい”と絶賛されるが、一方で、濃厚な酒は“くどい”といわれる傾向もある。しかし、池島さんのどぶろくは濃厚なうまみをもちつつ、驚くほど爽やかだ。その秘密のひとつが、自然農法の米。肥料分が少ない土壌の米は、とことん溶かしてもくどくならないという。さらに、白麹の割合を多く使うことでクエン酸による爽やかな酸味を引き出しているため、甘酸っぱく軽やかな仕上がりになる。

「レモンサワーが大好きな人が多いように、クエン酸は現代の人になじみやすい酸味であることは間違いないと思うんです。おすすめのペアリングは、メキシコ料理のワカモレ。ぜひ試してみてください」

 シュワシュワとした爽快さと甘酸っぱさは、肉料理などにも合わせやすい。新世代のどぶろくを自由なアイデアで楽しもう!

ワカモレやチリコンカンとの相性が抜群