土や樹液から絵具をつくる

ふるさかはるか《山かけと懺悔》2023年 木版 藍・土、紙 作家蔵 撮影:麥生田兵吾 画像提供:Gallery PARC

 記事の冒頭で触れた版画家・ふるさかはるか。2002年に渡欧。フィンランド、ノルウェーでの滞在制作を経て、2017年からは青森を中心に自然とともに生きる人々に取材を重ねながら木版画の制作に取り組んでいる。

 ふるさかの木版画は気の遠くなるようなプロセスを経て生み出される。自ら採集した土や自分の手で育てた藍から絵具をつくり、木のかたちや木目をそのまま生かして版木をつくる。青森では漆の木と樹液に着目し、漆そのものの色と形で雪の漆林を描いた。

「ノルウェーのサーミの人たちから教わったのは、自然からもらった素材を通して、その自然に答えるように手を動かし思考するということ。それは単に自然のものを利用するということではありません。考えたことをどのように自然と協調して形にするかが大切だということです」

 展覧会ではノルウェーと青森での取材に基づき制作された3つのシリーズ「トナカイ山のドゥオッジ」「ことづての声」「ソマの舟」を紹介。ふるさかの制作過程を追った映像も公開されている。

 

精霊や龍が生きる奄美大島

ミロコマチコ《2匹の声》2022年 アクリル、木製パネル 作家蔵 Photo: Yuichiro Tamura

 絵本作家としても知られる画家・ミロコマチコは「生きる」ことに軸を置くために、11年間暮らした東京を離れ、2019年に奄美大島に移住した。新しい環境を自分の体に刻むため、森の中で生活。移住後の作品には身近な生き物に加え、精霊や龍など目に見えない存在も描かれている。

「奄美の人はいろんなものがみえていて、感じることを大事にしている。それが、日常会話でふつうに話されているんです。たとえば嵐が来ると昨日海の中で龍を見たとか、道路にいた鳥は亡くなった母だったとか、私が忘れてしまった感覚を持っています」

 本展では奄美に移住後の作品を中心に紹介。新作インスタレーションは円柱形の小屋といった造形で、中に入るとぐるりと360度、壁に幻想的なペインティングが施されている。作品のテーマは「生命のうごめく奄美大島」。その空間にたたずんでいると、どこからともなく精霊がやってきても、不思議には思わないような気がしてくる。

 

震災後の大地で生きる植物の姿

倉科光子《Certain place in Iwate》2018-21年 透明水彩、水彩紙 作家蔵

 倉科光子は2013年から東日本大震災の被災地に足を運び、津波の浸水域に生えた植物の絵を描き続けている。会場には17点の植物画が並び、簡単なキャプションが添えられている。これが衝撃的で、同時に強い「生命力」を感じさせてくれるものだった。例えば、《Certain place in Iwate》という作品。

「津波から2年後 初夏 津波は土砂とともに海岸植物を内陸に運んだ 海とは離れた場所に悠々と立ち上がるマルミノシバナ ひび割れた地面から光を感じてさまざまな植物が芽を出した」

 震災後の大地には、本来、海岸に生息するはずの植物が力強く生命の光を灯している。「大地に耳をすます 気配と手ざわり」は、人の力の及ばない自然への畏怖と敬意を感じさせてくれるとともに、人間がもつ「生きる力」を呼び覚ます展覧会だ。