「ラ・パール・デュー」白波瀬(しらはせ)和宜シェフ。料理にはバカボンさんの野草のほか、自身で栽培するハーブも用いる

80種類もの野草を「野にあるように」ほおばる

バカボンさんが活動しはじめた時期から、すでに野草が主役の料理をしていたのが、京都市左京区のフレンチレストラン、「ラ・パール・デュー」の白波瀬(しらはせ)和宜シェフだ。

その日採れた数十種もの野草で魚や肉を包み込んだ冠型のサラダ「花冠」は、あたかも大原の野草のショーケースだ。

「ラ・パール・デュー」の「花冠」。西洋わさび風味のソースの上に、野草、味をつけた野菜、スモークした魚や肉。取材時は、80種類もの野草と野菜が盛り付けられていた

「フレンチの巨匠、ミシェル・ブラスのシグニチャーなメニュー『ガルグイユ』からインスピレーションを得ました」と白波瀬シェフ。「ガルグイユ」は、地元の食材を数十種類使った煮込み料理で、“郷土の素材の饗宴”と称賛される。「花冠」は、それに大原の野菜と野草でオマージュを捧げた。

手をつけるのをためらってしまう美しさだが、白波瀬シェフは「混ぜて食べてください。野草の味は、相乗することによって変わってくるんです」

口の中で、野草の微かな酸味、甘さ、ほろ苦さ、多彩な食感がいっせいに主張する。複雑にして爽やか。これが「グルメな鹿さん」も味わう、野の幸の美味だ。

左上から時計回りに、カキドオシ、ヨメナ、ウシハコベ、セントウソウ、シロザ、チドメグサ、ノゲシ
ドリンクメニューには、クロモジのお茶も。季節によってはフレッシュな葉を使う。清涼感のある飲み心地

 野草から得られる知恵、人と自然が共生してきた痕跡

「山の民の知恵が、野草には詰まっている」とバカボンさん。「コシアブラは、実から、牛舎の灯にともす油を絞ったことが名前の由来。カラムシはシコシコとした歯応えで、腹持ちが良いから、戦時中に、食べることが推奨されていた」

人と野草とのつながりは、食後の爽快感に最も強く実感できる。いわゆるデトックス効果だが、その時期の野にあるものを食べて心地がいいのは、人間が自然の摂理と共鳴して生きてきたからに違いない。

野草ワークショップやイベントで、バカボンさんは、自ら採集した野草を料理することもある

大原の古民家に暮らし、ハーブについての著作を多数残した、故ベニシア・スタンリー・スミスさんは、エッセイにこう書いている。

「日本で育つハーブたちは、あなたに使われるのを待っている。彼らが目に入るように、毎日をもっとスローダウンして」(『ベニシアの京都里山暮らし』)

未知の味と古の知恵を秘め、たくましく生き延びる小さな力は、誰の足元にもある。ゆっくりと、下を向いて歩く心のゆとりさえあれば。