伝説上の大盗賊「袴垂」と同一視される
保輔は後世、『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの説話集に登場する、伝説上の大盗賊「袴垂(はかまだれ)」と同一視され、袴垂保輔と呼称されることもあるが、二人は分けて考えるべきだという(関幸彦『武士の原像 都大路の暗殺者たち』)。
平安後期の説話集『今昔物語集』巻第二十五「藤原保昌の朝臣盗人の袴垂に値ふ語 第七」では、袴垂を「盗人の大将軍(盗賊の大首領)」と称し、「度胸がよく、力強く、足早く(動きや行動が俊敏)、腕っ節も強く、頭も良く、「世に並びなき者」と褒め称えたのちに、以下の説話を記している。
10月の朧月の夜、衣服が入り用になった袴垂は、少し手に入れようと、あちらこちら歩き回っていた。
真夜中ごろであり、人々は寝静まっていたが、ただ一人、笛を吹いて、ゆったりと歩いている者がいた。
袴垂はその笛の男を襲って、衣服を強奪しようと思ったが、なぜか、恐ろしく感じ、手が出せなかった。
しばらくあとをつけていた袴垂だが、意を決して、笛の男に襲いかかった。だが、どうにも恐ろしく、袴垂は膝をついてしまう。
笛の男は袴垂の目的が衣服であることを知ると、袴垂を自邸に招き入れ、衣服を与えた。
袴垂は死ぬほど怖くなり、家を飛び出したという。
この笛の男こそ、前述した、保輔の兄・藤原保昌である。