文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=吉田酒造店

やさしい甘さとうまみ、爽快な切れ味を備えた13度という低アルコールの山廃生原酒。能登杜氏伝統の骨太な山廃造りを背景としつつ、あっと驚く新境地を拓く吉田酒造店の新たなフラッグシップ。こんな“山廃ワールド”があったなんて! 「吉田蔵u 石川門 生酒」720ml 1870円、1800ml 3740円(吉田酒造店)

伝統技術を背景として生まれた“モダン山廃”

 ピチピチはじける細やかな泡がグラスに立ち上る。さわやかな口当たりとともに広がるのは、やさしい甘さとさわやかなうまみと酸味。白桃を思わせるごくおだやかな香りが返り、甘美な味わいは、すがすがしくすっと消える。

 これが“山廃仕込みの原酒”と知って驚いた。そもそも石川県は江戸時代から続く日本屈指の酒造りのスペシャリスト集団、能登杜氏のふるさと。その能登杜氏が得意とする酒造りの技法が、自然界の乳酸菌を操る山廃造りだ。山廃仕込みの原酒といえば、濃醇でうまみたっぷり、グラマラスで燗酒にぴったりな酒というイメージもある。

ピチピチ弾ける爽快なガス感が、四川山椒などスパイスをきかせた麻婆豆腐やエスニック料理にもよく合う! 

 2021年11月、本格的に初リリースされた吉田酒造店の「吉田蔵u」シリーズは、そんな石川県の山廃仕込みの伝統技術を背景として生まれた、“モダン山廃”。山廃仕込みの原酒でありながら、アルコール度数13℃以下、発酵由来のシュワッとした微発泡感、さわやかな酸味とうまみを身上とする。乳酸のほか、発酵助成剤、酵素剤など表示義務のない添加物を一切使用せず、米と水と酵母のみで醸すナチュラル酒だ。

吉田酒造店7代目の吉田泰之さん。東京農業大学醸造科学科卒業。2011年、吉田酒造店に入社、2017年に31歳で杜氏に就任した

 このシリーズを生み出した7代目、吉田泰之さんはその誕生についてこう話す。

「吉田蔵uシリーズは、私が考える地酒本来の姿のすべてを形にしたものです。地酒とはいったい何か。このことをずっと考え続けていまして、地元のお米、水、酵母、技術、すべてこの土地のものに立ち返る酒造りに取り組もうと舵を切りました」

 2014年から吉田酒造店が主体となり「山島の郷酒米振興会」を立ち上げ、地元の酒米栽培振興の取り組みを開始。現在は20軒のメンバーの生産者が栽培した酒米を使い、酒造りをおこなっている。

田んぼが広がる石川県白山市。仕込み水は標高2702mの白山からの伏流水。「夕日がきれいで、心温まる景色をしっかり守っていきたいと考えています」と泰之さんは話す