取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛

『樽酒と蕎麦のセット』は樽酒一合、蕎麦付き。蕎麦と日本酒はメニューから好みで選べる。2500円

市井の活気と、古くから続くものづくりの情熱が交差する西陣

 京都市内は、中心地から少し外れると、とたんに街の個性が輝きだす。西陣織で栄えた京都市西北部に広がる「西陣」は、職工が多く住んだものづくりの街であり、人々の生活の営みが今も息づいている。実は西陣という行政区はなく、その範囲もゆるっとしていて厳密に決まってはいないのだとか。それでもこのエリアに住まう人たちは、“西陣に暮らす“という気持ちを大切にしている。

 そんな街の魅力に惹かれるように、最近は若い人が店を出すことも増えてきた、これからが楽しみなエリアでもある。

店頭に杉玉が下がった白い建物は、古い米蔵を改装したもの

『樽酒と蕎麦 VIBES』は、その西陣の一角、アーケードがかわいらしい北野商店街から一歩入った場所にある。古い建物はもとは米蔵で、今もその面影を残している。高い天井は開放感たっぷり、昼間は上から差し込む光や風が気持ちいい。ここはシェアスペースで、『樽酒と蕎麦 VIBES』は週3日の火、水、木曜のみ。樽酒と手打ちそばが昼から楽しめる立ち飲み酒場として営業している。

大橋さんとの会話も楽しい

『樽酒と蕎麦 VIBES』の店主は長髪にTシャツというアメリカン(?)な大橋“テッド”太郎さんと着物がお似合いの奥様弓惠さん。大橋さんは日本酒の蔵元や日本のワイナリーで働いたこともあるというお酒好き。いつかはお店をやりたいね、と二人で話していたところ、縁あってこの場所と出会い、2023年4月に店をオープンすることになった。

着物がいたについた弓惠さんも京都出身

「商店街の道をまっすぐ北へ上がると北野天満宮の参道に繋がっています。もとは市電が通っていた道でね、アーケード付きの商店街としては古い方でしょうね」と、大橋さんは北野エリアについて話す。

「昔は闇市や赤線もあったようですし、銭湯もたくさん残っています。成人映画館もあって、民度の幅が広い土地柄が面白いでしょう」と続けた。

 京都出身という大橋さんだが、出身は西陣ではないそう。でもこの土地への愛着は深く、街の様子を詳しく教えてくれた。観光できたのなら、ぜひこのエリアを少し歩いて楽しんでいって欲しいという。