モティーフに隠された意味とは

 この絵の場所は私邸で、シャンデリアのロウソクが一本だけついているというのは神が偏在して讃えているという象徴だとされています。ふたりの人物は豪華な衣装に身を包み、女性が頭につけているベールの細かいレースや刺繍、男性の貂の毛皮がついたマントの表現、同時に絨毯の模様、シャンデリアの光の輝きなどは特筆に値します。

 後ろの壁にかけられた凸面鏡の存在も面白いでしょう。この時代は凸面鏡しかなかったのですが、鏡があることで空間が一気に広がるという、ヴェラスケスの《ラス・メニーナス》(1656-57年)の鏡に通じていくような絵画のなかのひとつの役割を担います。

ディエゴ・ベラスケス《ラス・メニーナス》1656-57年 油彩・カンヴァス 318×276cm マドリード、プラド美術館

 前ページにあるように凸面鏡の周囲には10個のメダイヨン(丸い装飾のこと)があり、キリストの受難伝がいちばん下の「オリーブ山の祈り」から右回りに「復活」までがそれぞれに描かれ、鏡自体が神の目であるという解釈もされています。鏡の隣にはカトリック教徒が祈りのときに用いるロザリオがかけられています。

 窓辺の果物は原罪の象徴とされてきましたが、新しい解釈ではこれはオレンジで、犬とともにステイタスシンボルではないかという見方もされています。

 また、結婚というのはキリスト教の儀式のなかでも重要であるという意味も兼ねていると解釈されています。女性のお腹が出ているというのは《ヘントの祭壇画》のエヴァやマリアと同じで、妊娠しているのではなく、当時の女性の理想像だといわれています。

 部屋全体に窓から柔らかい光が差す室内空間に消失点があるか調べたところ、一点透視図法には当てはまらず、消失点が二点になったそうです。イタリアで発展した一点透視図法は数学的に構築しましたが、この絵は数学的に構築したのではなく、見たままを描いて遠近感を出していることから、経験的な遠近法と呼ばれたりすることもあります。光そのものを描くことで、空間や現実、計り知れない雰囲気や大気を表現することにつながっています。