今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

 黒という色に対して、ハズレのない定番・安全牌というイメージを持っている人も多いが、ある時代までファッション、とりわけモード界では死や反抗を意味する色として、タブー視さえされていた。そんな固定観念に風穴を開けたのがヨウジヤマモトであり、コム・デ・ギャルソンである。1982年のパリコレにおいて、全身を黒一色で覆ったコレクションを発表し、激震を走らせた両ブランド。これが世に言う“黒の衝撃”だ。以降、黒はシーンやスタイルを選ばぬ万能色という地位を得る。

 そしてさらに時は進み、現在。未曾有のパンデミックにより人々のライフスタイルが大きく変化したことで、オン・オフ兼用の汎用性がキーワードに浮上。そこに大人の足元にふさわしい落ち着きと品位を与えて誕生したのが、エレガントシックな“ブラックスニーカー”である。革靴ほどのドレス度はなくとも、上質なレザー使いでちょっといいレストランに行けるほど品格を備えている。ましてやスニーカーソールで履き心地の良さも十分。

 ここでは、クラフツマンシップを感じさせる5つのシューズブランドが手掛けるモデルをご覧いただくとしよう。革靴ラバーをも振り向かせる“逸足”揃いだ。

 

1. J.M. WESTON「CANASTA ELASTIC SNEAKER」

スニーカー¥101,200/ジェイエムウエストン(ジェイエムウエストン 青山店)

漆黒のレザーとエラスティック構造が洗練されたフォルムを際立たせる

 1891年の創業以来、長年履ける堅牢な靴作りを信条としてきたフランスの老舗シューメーカーといえば、ジェイエムウエストンに他ならない。

 本作においてもフランスブランドらしいエレガントな美意識と、熟練の職人による卓越した技術は健在。オペラパンプスのように上品でミニマルなデザインに、ステッチを表に出さない縫製技法が加わることで、洗練されたフォルムが一層際立つ。

 またエラスティック構造を採用しているので、脱ぎ履きも容易かつストレスフリー。艶感を抑えた上質なレザーとラバーソールのコンビも実にシック。幅広い装いに馴染み、日常を共に歩むパートナーとなり得る一足だ。