名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登
正統派にして時代に則する柔軟性を併せ持つ
16世紀以前から現代に至るまで連綿と続く英国革靴作りの伝統。そのレガシーを真摯に引き継ぐ名門として知られるクロケット&ジョーンズ。英国靴のメッカと呼ばれる聖地、ノーザンプトンにて1879年に創業した堂々の老舗である。1924年には英国王ジョージ6世も工房を訪れ、その質の高さに賛辞を贈ったという。
ノーザンプトンには現在も名だたる靴メーカーが複数現存し、靴好きを惹きつけてやまない。なかでもクロケット&ジョーンズが優れているのは、その類い稀な柔軟性にある。実は近年までOEMファクトリーとして、多くのブランドの靴生産を担ってきた同社。各ブランドが打ち出す時代に則したリクエストに巧みに応じるなかで、多様な対応力が蓄積されたのである。
多くの英国ブランドが英国的な正統性を固持したがるのに対し、同社は世界各国のニーズを受け入れ発展を続けた。それも英国靴のアイデンティティーを失うことなどなく。この優れた対応力は生産の安定性にもつながり、現在英国靴ブランドのなかでも、極めて安定したクオリティに加え、納期を守る優良ブランドとして広く認知されている。