文=萩原輝美 

 アレッサンドロ・デラクアはブランド「No21」(ヌメロヴェントゥーノ)のクリエイティブ・ディレクター。毎シーズン、ミラノでウイメンズとメンズのコレクションを発表している中堅デザイナーです。日本でも人気がありこの春、福岡にオープンしたホテルリッカールトンの1階に世界最大規模の直営店をつくりました。そのオープンイベントで来日したデラクアに、9年前表参道のフラッグシップショップがオープンした時以来2回目のインタビューを実現。コロナ禍を経てライフスタイルや日常が変化した最近の心境とクリエーションについて話を聞きました。

No21が支持される理由

Q: 日本ではNo21のファンが大勢いますが、支持される理由は何だと思いますか?

A: シンプルなシルエットだけれど、アクセントにエンブロイダリーとかレースを使うフェミニンなテイストが人気なんだと思います。

Q:デザインするとき、特にイメージする女性はいますか?

A:毎シーズンテーマによって女性像は変わるんです。

Q:今までデラクアさんがデザインする服を見てきましたがセンシュアルな印象です。でも日本人はイタリア人と違いグラマラスな服が苦手だと思いますが、デザインする時のバランスはどう考えていますか?

A:センシュアルな印象だということはうれしいです。グラマラスな服というのは実際肉体的なカッティング、胸元の開き具合やスリットの長さで表現するもの。でもセンシュアルは女性の仕草や表情によって内面から出てくるものだと思います。それがうまく引き出せるようなデザインを心がけています。

Q:数年前からメンズのデザインも始めていますが、自分の着たい服をイメージしているんですか?

A:メンズの服はストリートを意識しています。今日の僕の服、シャツもパンツもよそのブランド。50歳過ぎてNo21のロゴを着るのはちょっと恥ずかしくなったので着ていないんです。

デジタルは面白みもリアリティもない

Q:コロナ禍でリアルなショーができなかった時の心境は?

A: 1回だけデジタルで発表しました。デジタルではいくらでも修正をして完璧なものを作ることができたのだけれど、面白味もリアリティーもない。例えばキャットウォークでモデルのスリップドレスの肩紐がずり落ちたり、転びそうになったりすること全てがリアルでそこからストーリーが生まれるんです。そしてハプニングを含めたリアリティこそが表現したいエスプリです。

Q:いち早くデジタルではなくリアルショーを再開しましたね。

A: はい、新作を発表するときそこに観客がいることが何より大切なんです。その反応や拍手がデザインする原動力になっています。

Q:No21の服は刺しゅうや手技が使われていますが、オートクチュールに興味はありますか?

A:もちろん! セレブリティの顧客にはオーダーメイドで服を作っています。自分のオートクチュールコレクションを発表することはないけれど、シャネルのメティエ・ダールコレクションはデザインしてみたい。

Q:デザイナーになっていなかったら何をしていましたか?

A:実は映画が大好きで俳優になりたかったんです。今からは無理だから、いつか映画の衣装を手がけてみたい。

自分のビジョンを追求する

Q:デザイナーの仕事とは何だと思いますか?

A: スタイルの道を作ること。そしてそれを続けてゆくことです。

Q:デザイナーを目指す若者たちにメッセージをお願いします。

A:急いではダメ。まず、自分のビジョンを追求すること。そして表現する方法を学び、探り、実現することが大切だと思います。

 アレッサンドロ・デラクアは1996年、自身の名を冠した「アレッサンドロ・デラクア」でコレクションデビューしました。当時ミラノはプリティウーマンをイメージした明るい色のスーツ中心のプレタポルテが主流。そこに現れたデラクアのショーを初めてみた時はドキッとしました。ブラックとヌードカラーを中心に強撚ストレッチのニットでボディのシルエットを極めながら若さを感じさせるコレクション。衝撃的でした。

 順調に数々のコラボレーションをこなしボルボネーゼやマーロなどのクリエイティブ・ディレクターも経験しましたが自身のブランドは大手傘下に入り退任することになります。

 2010年辛い経験の後「ヌメロヴェントゥーノ」を立ち上げました。デラクアの誕生日は12月21日、自身のラッキーナンバーだという「21」をブランド名に付けた思い入れのあるネーミングです。

 今年2月、ミラノにある自身のショールーム「ガレージヴェントゥーノ」で発表した23秋冬コレクションではブラック&ホワイトのバイカラーコーディネイトからスタート。テーマは「Striking Down Cliches (常套句を打ち消す)」。どこか禁欲的でありながらスリットや抜け感がコントラストを与えてフェミニンです。少し退廃的なムードを漂わせアンバランスな女性の魅力を引き出したコレクションでした。