名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登
ミラノの感性と職人技の華麗なる融合
1937年にジョヴァンニ・フォンタナによりイタリアはミラノにて創業したヴァレクストラ。世界都市のひとつであるミラノの中心地サン・バビラにおいて、確かな品質の革製品を揃える店舗は、当初から注目を集めたという。
もちろん、クリエイティブの才に富むジョヴァンニ・フォンタナの存在も見逃せない。彼が打ち出す斬新なアイディアを熟練の職人技を生かしつつ完成させることで、目の肥えた顧客に強くアピールしたのである。なかでもブランドの名を世界に知らしめたのが、イタリアのプロダクトデザインにおける最高の栄誉、コンパッソ・ドーロ賞の受賞。1954年にリリースされた旅行用の「24時間バッグ」は、その受賞によりニューヨークのMoMA美術館に永久所蔵されることとなった。
その後も次々と個性的かつ利便性の高いレザーグッズを打ち出し成長を続けたヴァレクストラ。途絶えることのない物作りの原動力として、デザインとトレンドの街、ミラノにショップとアトリエを構えたことは大きな意義を持つ。ジョヴァンニ・フォンタナが、かつてアトリエの窓から行き交う人々を眺めつつ想を練ったように、現在のデザイナーもまた、ミラノを拠点に活動を続けている。
先進的な街だけが持つ優れた感度とクラフツマンシップの絶妙なる融合。それがヴァレクストラの大きな秘密となっている。