名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

紳士が持つべき本式の傘を作り続ける英国の老舗

 世界で最も格式ある傘ブランドと言えば、それは英国ロイヤルファミリーからも長年認められているフォックスアンブレラズが筆頭格だ。1868年ビクトリア時代のロンドンにて、トーマス・フォックスが創業した傘屋にその原点がある。当時、傘のフレームは鯨骨がスタンダードであった。しかし1880年代にスチール製のU字断面フレームをフォックス社が完成させ、業界に一大変革をもたらしたのだ。

 また、第二次世界大戦中にパラシュート製造に携わった経験を活かし、同社は当時使用されていたシルクに代わり、ナイロン素材をいち早く導入。軽く耐久性に優れた実用的な傘を世界に先駆け実現させたのである。

 フォックスアンブレラズが手掛ける傘の注目すべきポイントとして、かつて英国紳士が愛用したステッキに通じる存在感と洒落感を残しているところも見逃せない。持ち手となるハンドルにマラッカ(籐の茎)やワンギー(竹)、チェスナット(栗の木)などの天然木をラインナップしており、非常に豊かな趣味性を感じさせる仕上がりだ。

 また広げたときにピンと張られた高いテンションの傘地も特徴。雨粒の当たる音が格別のサウンドを響かせるとエモーショナルな評価も得ているのである。確かに梅雨の季節は湿度も高く煩わしく感じるもの。しかし美しい音色を弾かせる極上の一本があれば、雨もまた楽しいイベントとなりえるのだ。