名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

イタリアを代表するクチュールメゾンとして発展

 ヴァレンティノ ガラヴァーニは同名のデザイナーが1960年、イタリアはミラノに興したファッションブランドだ。若い頃からアートに親しんだヴァレンティノは、スケッチの勉強からスタートし、1950年代にパリにて学ぶことから、ファッション業界へと進んでいった。

 その後、ベルエポック時代からのクチュリエであるジャン・ドゥセのメゾンに所属し、キャリアを徐々に蓄積。彼が最も好むカラーである赤は、この時代に出会ったバルセロナ・オペラの舞台衣装に由来するという。

 1962年に行なったヴァレンティノ初のコレクションではニューヨークの企業と契約。その成功によりヴァレンティノはパリのメゾンに匹敵するクチュールデザイナーとして世界的な存在へと成長する。ケネディ大統領夫人など、多くのセレブを顧客とした確かな実績は、数々のファッション賞の受賞となって結実する。

 その頂点となるのが、イタリア最高峰の栄誉である「騎士大十字勲章」の授与。2000年代に入りヴァレンティノはデザイナーという地位から退くも、後任には長年メゾンを支えてきたピエールパオロ・ピッチョーリらがクリエイティブディレクターとしてブランドを牽引。

 近年はメンズにも注力し、2024年春夏シーズンではミラノにてメンズカテゴリー単独のコレクションショーを実施することでも話題となった。ヴァレンティノのシグネチャーである赤をメインに据えたメンズスタイルは、世界から高い評価を得ているのである。