名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登
英国王室御用達を長年務めるシャツ作りの名門
正統派のドレススタイルを完成させるには、確かにスーツも大事だが、折り目正しいシャツの存在も不可欠だ。そういう意味で英国のターンブル&アッサーは、理想的なドレスシャツを作り続ける名門である。その始まりは1885年。二人のシャツ職人であるレジナルド・ターンブルとアーネスト・アッサーが、ロンドンにて興した紳士服ショップが原点である。
当初から“上流階級向け”のコンセプトを貫き評判を集め、1904年にはアレッサンドラ王妃からの注文を受けることに始まり、現在まで英国王室御用達ブランドとして、変わることなく地位を守り続けている。
現在、高級シャツを手掛けるブランドは星の数ほど存在するが、“不変”という点でこの老舗は群を抜いている。1900年代からは既成シャツも世界に向け打ち出してはいるが、今もって基本はオーダーメイドである。厳選の素材と熟成のパターンを使用し、ヴィクトリア朝時代を通して培った美観を今に伝えている。
また、ターンブル&アッサーは英国名義となる服飾ブランドの多くが本国生産から手を引くなか、現在もイギリス南西部に位置するグロスターの工場にて製造を維持している。メイキングの内容など子細を明らかにはしないが、完成した製品はその昔、並みいる上流階級を満足させた品質を堅持しており、まさに英国高級シャツの正当な担い手として堂々の存在だ。安定感すら漂わせる足跡に多くの賛辞が寄せられるものの、対してブランドはこう述べるに留めている。
「我々はただシャツを売っているのではない。ターンブル&アッサーを提供しているのである」