江戸一番のおしゃれアイテム「印籠」
そして、サムライのおしゃれアイテムの極めつけが「印籠」だ。印籠はドラマ「水戸黄門」でおなじみのアレだが、中に常備薬を入れ、腰に提げて携行するのが正しい使い方。江戸時代には男性の必需品となり、将軍や大名も自分の好みの意匠を施したオリジナルの印籠を作らせたという。
そんな印籠人気により、江戸時代には印籠蒔絵師という専門職が誕生。印籠には帯に通して落下を防ぐための紐「緒締(おじめ)」と、その紐の先端を飾る「根付(ねつけ)」が付いており、この緒締と根付を専門的に作る職人も存在した。
静嘉堂文庫美術館では276点の印籠を所蔵しており、展覧会ではその中から40点を厳選して公開。個人的には、ここが展覧会最大のハイライト! 巧みの技が施された印籠が展示ケースの中にずらりと並び、まさに眼福。1つ1つの印籠に花鳥風月、四季草花、故事人物などの図柄がきめ細かく描かれており、その多彩なデザインに驚かされる。
印籠40点を、「もしひとつだけ自分のモノにできるとしたら、どれを選ぶか」と考えつつ鑑賞。でも、なかなか1つに絞れない。ネクタイ選びに通じる難しさがあった。
気になった印籠をいくつか。ひとつめは、原羊遊斎《雪華蒔絵印籠》。原羊遊斎は江戸後期に最も人気があった蒔絵師。顕微鏡を使って雪の結晶を観察・記録し、『雪華図説』という本を出版した。この印籠には、そんな雪華模様が全面にあしらわれている。その配置がおしゃれで、なんとなくルイ・ヴィトンのモノグラムのデザインを思わせる。
ふたつめは柴田是真《刀装具蒔絵印籠》。幕末から明治にかけて活躍した柴田是真の作で、艶やかな黒地の印籠に刀装具の絵が施されている。その刀装具の絵が、なんとも細やか。鐔や縁、笄(こうがい)といった刀装具の絵の中に、さらに草花の図柄があしらわれているのだが、それがまた実に緻密。是真の名人芸をたっぷりと堪能することができる。
吉村寸斎《木目地馬蒔絵螺鈿印籠》も印象に残った。ぱっと見ると木目の印籠に見えるが、木地のような背景は黒漆地に金の蒔絵で表しているという。キラキラと輝く螺鈿の馬も魅力的だが、なにより木目の再現力に心惹かれた。