うまくいっても、うまくいかなくても

 変化は大会時の言葉にもうかがえた。うまくいっても、うまくいかなくても、渡辺は前向きな、強い言葉を語る。

「そこがいちばん変わったんじゃないかなと思います。言葉に出すことによって、言った以上はやらないといけないということもありますし、おのずと自分を前向きに奮い立たせることができるというのもあります」

 先のやりとりをはじめ、コーチと信頼関係を築きつつ多くを得て、渡辺が輝きを放ったのが昨シーズンであった。

「新しい自分に出会って、また違う苦労とか、違う苦しさというのはもちろんありますけれども、ただその苦しさというのも、味わうレベルに行くことがないと味わえない苦しさだと思うのでありがたいことだと思っています」

 3歳の頃、荒川静香の演技を観て、フィギュアスケートに惹かれた。以来、打ち込んできた。

「フィギュアスケートというのは人の感情を特に動かせるスポーツだと思っていますし、芸術とスポーツの混合されたものだと思います」

 そしてこう続ける。

「私にとってのフィギュアスケートは命に等しいもの。私の全てだと思います」

 ときにやめようかと思うほど苦しんでも、根底には変わらずにあったフィギュアスケートへの熱とともに、自分の可能性をあきらめずに努力を重ねた。その時間の中で育まれた土壌があった。だからこそ、芽吹かせることが、花開かせることができた。2022-2023シーズンはその証にほかならない。

「来シーズンから、もっともっと上を目指していきたいと思います」

 ショートプログラムは昨シーズンに引き続き宮本賢二、フリーはシェイリーン・ボーンに振り付けを依頼したという。

 再び新たな自分に出会うために。

 渡辺倫果は来たるシーズンを、その先の未来を見据えている。

 

渡辺倫果(わたなべりんか)TOKIOインカラミ/法政大学所属。2002年7月19日、千葉県生まれ。3歳の頃スケートを始める。2021-2022シーズン、世界ジュニア選手権に出場。2022-2023シーズン、グランプリシリーズに初めて臨みデビュー戦のスケートカナダで優勝するなどしてグランプリファイナルに進出し4位。世界選手権にも初出場、10位になる。