「高温山廃酛」とは?

 まず日本酒造りは、“酒母”と呼ばれるスターターの仕込みから始まる。これは蒸し米と麹米、水を混ぜ、アルコールをつくる微生物の酵母を大量に培養した液体だ。そのさいに一般的な酒は乳酸を添加して、雑菌の繁殖を防ぐ。

酒母造り、お湯を投入

 また、アルコールをつくる微生物の酵母を投入して増殖させるのだが、温度が高いと死んでしまうので、通常の酒造りでは酒母の温度を24℃まで下げてから酵母を入れる。ちなみに昔ながらの酒造りの製法である生酛や山廃酛では、人工的な乳酸を添加せず、自然界の微生物である乳酸菌の力を利用して、酒母タンク内を酸性に保つことで、酸に弱い雑菌の侵入を防ぐ。

「高温山廃酛とは、その名の通り、55℃の高温で仕込む酒母(山廃酛)の製造方法です。最初に蒸し米と米麹、温度を調整した水を入れて、全体を混ぜたときに55℃になるようにします。この温度で、タンク内のほとんどの雑菌が死滅します」

お湯を投入後、酒母を攪拌

 高温山廃酛を仕込んだ当日は、中心温度が50℃を下回らないようにする。これは米のデンプン質を糖化する麹菌が働きやすい温度。ただし60℃を越えると麹菌の酵素力が失われてしまうため、55℃前後をキープすることで殺菌かつ、米の糖化を進められる。

 つまり、雑菌を死滅させつつ麹菌を生かすという、ギリギリのせめぎ合いのラインが50~55℃なのだ。

 しかし、55℃のままでは酵母菌も乳酸菌も生きられない。では、どうするのか?

「仕込んだ日の夕方、酒母の表面に仕込み水で“打ち水”をします。これで表面温度が30度前後まで下がり、表面に近い部分だけは乳酸菌も酵母菌も元気に活動できる状態になります」

 翌日、杜氏は自分の手を酒母のタンクに入れて温度を確認する。冷たい層と温かい層の境がはっきりわかるため、そこを静かに混ぜる。これを数日繰り返すと、酒母の表面から酒造りに必要な微生物がじわりじわりと増えて、しだいにその領域が拡大されていく。

酒母の発酵最盛期

 つまり高温山廃酛は、“微生物が増殖する層”と“米の糖化が進む層”という、2層の絶妙なコンビネーションで成り立つ日本酒の製法なのだ。