文=加藤恭子 撮影=加藤熊三、木戸泉酒造
“甘美なるマニア酒”
しっかりと熟成した琥珀色。グラスを傾ければ、ドライフルーツに似た甘酸っぱさと穏やかな旨味が、のびやかに、ゆるやかに、とろりと広がる。日本酒の熟成ワールド、おそるべし。知る人ぞ知る熟成酒のなかでも、この「AFS Stratae(アフス ストレータ)」は、ひときわ飛びぬけた個性を放つ“甘美なるマニア酒”、といっても過言ではないだろう。
「ひとことで言うと、“変態”ですよね。うちの蔵は」――。
自らそう名乗るのは、この酒を醸す木戸泉酒造を率いる5代目蔵元兼杜氏、荘司勇人(しょうじはやと)さん。まずはその歴史からひもとこう。
創業は、明治12年(1879)。当時は醤油やみそなどの卸、塩の元売り、漁業などをおこなう傍ら、酒造業を開始した。現在の木戸泉を特徴づける大きな転換期となったのは、27歳で家業を受け継いだ3代目が漁業権を譲渡し、酒造業に専念してからのこと。昭和31年(1956)、3代目はここで造る“すべての酒”の仕込み方法を、大鉈を振るうがごとく、「高温山廃酛」というきわめて特殊な製法にガラリと切り替えた。
「高温山廃酛」とは、いったいどのような日本酒の製法なのか。