神社最大の人気スポット

 建物だけでなく、この神社は歴史もご利益もすごい。社伝によれば創建は211年。先にも述べたように、神功皇后が住吉大神を祀ったことに始まる。以来連綿と歴史を積み重ね、現在は摂津国の一の宮として大阪市民にも親しまれている。住吉大神は伊邪那岐命の禊祓によって生まれたため「祓」を司る神であり、この神社の夏祭りには日本全体をお祓いするという意味がある。

 また、海中から出現したことから海上の安全を司る神でもあり、古くから航海関係者や漁民などにも信仰された。奈良時代には、遣唐使もここで道中の無事を祈願して航海に出たという。現在は埋め立てによって海が遠くなっているが、昔はこの神社のすぐ前が白砂青松の海岸だったのだ。

 本殿を取り囲むように建つ摂社末社にも、それぞれに面白い由来やご利益がある。まずは侍者社。初代神主とその妻を祀る社で、男女の形をした土人形を奉納して恋愛成就や夫婦円満を祈る。

 次に五所御前。ここは住吉大神が最初に鎮座したとされる神聖な場所である。柵の向こうの玉砂利の中に「五」、「大」、「力」という文字が書かれた小石が隠れており、三つ見つけてお守りにすると、体力・智力・財力・福力・寿力という五つの大きな力を授かるという。願いが叶ったら、石を倍にしてお返しする。

五所御前の玉砂利

 ここでいったん外に出て、境外社の大歳社にも行ってみよう。ここには「おもかる石」と呼ばれる不思議な石が置かれている。まずお参りをし、石を持ち上げ重さをチェック。次に石に手を添えて願掛けをし、もう一度石を持ち上げてみて、最初より軽く感じればその願いは叶うという。ちなみにわたしも何度かトライしてみたが、石は決して軽くならず、なかなか願いが叶いそうもない。

大歳社の「おもかる石」 写真=フォトライブラリー

 再び境内に戻り、この神社最大の人気スポットである楠珺社へ。ここは商売繁盛、家内安全のご利益がある社で、初辰参りが有名だ。初辰とはその月の最初の辰の日のことで、この日にお参りすれば、より大きな助けを得られるという。毎月の初辰参りを4年間続け、計48回お参りする。これで四十八辰。大阪人らしいダジャレで「しじゅうはったつ」(始終発達)ということで、この社は「はったつさん」と呼ばれている。

楠珺社 写真=アフロ

 しかし、無事4年が過ぎてもそれはまだ最初の一歩に過ぎない。初辰参りの際は、偶数月には右手を上げる招き猫、奇数月には左手を上げる招き猫を受けて持ち帰る決まりがある。すると4年後には小さい招き猫が48体集まるので、それを持ってお参りに行くと、中型の猫1体と交換してもらえる。お参りを始めてから12年後、中猫2体と小猫48体がたまったところで大きな猫1体と交換。同じことをまた12年繰り返すと、24年後には右手の大猫と左手の大猫がセットとなる。これでめでたく満願だ。あまりにも気の長い話で、先にこちらの寿命が尽きてしまいそうである。

 境内左側には種貸社と大海神社がある。種貸社は文字通り種を貸す神で、もともとは稲の種を授かって五穀豊穣を祈る場だったが、やがて商売の元手という意味や子宝を授かるという意味にも転換され、信仰が広がっていったとのことだ。

大海神社 写真=フォトライブラリー

 大海神社は境内社の中でももっとも格式が高く、海幸山幸神話に出てくる海宮の竜王、豊玉彦とその娘の豊玉姫を祀っている。その隣にある志賀神社には、海の霊威を司る神であるワタツミ三神も祀られている。海運は大阪商人にとって命綱だったので、海の神様たちを特に大切にしたのだろう。

 住吉っさんをじっくり一周するだけで、このようにさまざまなご利益のある神様たちと会うことができる。大阪の庶民信仰は実にバリエーションに富んでおり、その根底には、常に現世利益的で前向きな精神があるように思う。それに触れるだけで明るい気持ちになれるので、わたしはこの神社が好きである。