魯山人が愛し、晩年まで何度も訪れたように、山代は海の幸、山の幸の宝庫です。旅館では一流の料理人が極上の料理が饗し、街でも山海の味覚を堪能できます。今回は「亀寿司」ご主人の市川秀一さんから、美しい器に盛り付けられたコース料理をいただきながら、山代の味覚についてお聞きしました。また、加賀市大聖寺で坂網鴨を提供する「ばん亭」のご主人・水口清隆さんに伝統の坂網猟で獲る鴨についてお話を伺いました。

文=山口 謠司 取材協力=春燈社(小西眞由美) 写真提供=亀寿司、ばん亭

「亀寿司」香箱蟹

地元の味覚を味わい尽くす

 地元で愛され続け、観光客もここを目当てに訪れる人が多い「亀寿司」さん。私も大好きなお寿司屋さんです。魚は地元の夜競りがあることでも有名な橋立港を中心に、金沢港、能登や氷見など、日本海産の魚介類を中心にご主人自らが厳選しています。また、醤油、塩、酢も地元産を使っているので、山代ならではの味をたっぷり味わえます。器にもこだわりがあり、九谷焼をはじめ地元の工芸作家の作品を贅沢に使用しています。

「亀寿司」

 ここでの主役はというと、やっぱり蟹だそうです。なかでも石川県で「香箱蟹(こうばこがに)」と呼ばれている、ずわい蟹(越前蟹・松葉蟹とも)のメス。オスは加能蟹といい、香箱蟹は加能蟹の約半分の大きさですが、小さいながらも味は天下一品。甲羅の中には内子(うちこ)や蟹ミソ、お腹には外子(そとこ)をたっぷり抱えています。内子はボイルするとオレンジ色になる卵巣、外子は茶色の卵のことです。

「亀寿司」の香箱蟹

 ただこの香箱蟹、石川県では資源保護から、毎年11月6日に漁を解禁して、12月29日までしか獲ることができません。冬の日本海はシケなどで漁に出ることができないこともあるので、石川県産の香箱蟹はまさに地元でしか味わえないプレミアものなのです。お店では殻をむいて出してくれるので、余す所なく食べ尽くせるのがとても嬉しいです。