北陸金沢から少し足を延ばすと、山中、山代、片山津、粟津という全国でも名高い温泉地として知られる加賀温泉郷があります。コロナ禍で全国の温泉地が苦戦する状況下にあっても、古きよき文化と新たな試みを融合させ、訪れる人を楽しませています。加賀のなかでも山代温泉と縁の深い文献学者であり大東文化大学教授の山口謠司氏に、その魅力を語っていただくシリーズ、ご期待ください。
文=山口 謠司 取材協力=春燈社(小西眞由美) 写真=山代温泉観光協会
あいうえお五十音図発祥の地
私と山代のご縁は、五十音図をつくった僧・明覚(みょうかく)上人について調べていたことにはじまります。平安時代、インドの言葉であるサンスクリットや中国語などを研究していた明覚は、比叡山での梵字(サンスクリット語)で書かれたお経の研究を経て、現在の加賀市山代にある薬王院温泉寺にやってきました。そしてこの地で、日本語の謎を解く五十音図をつくったのでした。承徳2年(1098)のことです。
山代温泉では、明覚上人の偉業を顕彰するために「あいうえおの郷」として、さまざまな試みをしています。ここは色絵磁器・九谷焼でも知られていますが、温泉寺の境内から背後の山に続く石段には五十音が記された九谷焼の陶板がはめ込まれ、「あいうえおの小径」という自然散策路になっています。山の中腹には明覚上人を供養した重要文化財・五輪塔があり、歴史を肌で感じることができます。
また、2018年からは「今年のにほんごコンテスト」を開催して、「あなたにとっての今年の日本語」と、そのことばを選んだ理由やエピソードを募集しています。このコンテストでは選考委員長を務め、また、講演などでも年に何回か訪れていることから、私にとって山代が第二の故郷のような土地になりました。そして行く度に、新たな魅力を発見しています。